方 法場合、消化管内水分挙動やその薬物吸収への影響はより複雑化する。また、薬物を食後に服用する場合や、水以外の飲料で服用する場合、あるいは消化器作用や毒性を示す医薬品を併用する場合は、消化管内水分動態が変化し、薬物濃度変動(濃縮や希釈)が生じる可能性もある。したがって、このような投与条件下では、結果として、薬物の消化管吸収動態に著しい影響を及ぼす可能性が考えられる。 例えば、danazolやgriseofulvinは、食後投与によって吸収性が増大することが知られており、その要因として、消化管に分泌される胆汁酸や食事成分の影響が推察されている4)。また、フルーツジュースや緑茶の飲用が、様々な医薬品(felodipine、fexofenadine、nadololなど)の吸収変動を引き起こすことも報告されている5〜8)。本現象は、従来、飲料中成分による代謝酵素/トランスポーター阻害に起因すると考えられてきたが、最近ではそれだけでは説明できない可能性が示されている。例えば、フルーツジュースなどの飲料が引き起こす薬物の吸収低下は、現在のところ、有機アニオントランスポーター(OATP2B1)の阻害に起因していると考えられているが、atenololやnadololなどはOATP2B1基質ではないにもかかわらず同様の相互作用が報告されており、新たな相互作用機構の存在とその解明に注目が集まっている1,6〜9)。一方、飲食物における物理化学的性質(浸透圧やpHなど)が純水のそれと大きく異なっている点を考慮すれば、このような相互作用が上述した消化管内水分動態変動に起因している可能性は十分に考え得る。 そこで本研究では、消化管内環境(飲食など)に起因した水分吸収/分泌変動とその薬物吸収動態への影響に関する詳細な解析を試み、その結果を基盤にした高精度な薬物吸収動態変動(相互作用)予測法の確立を目指した。試薬 Atenolol、antipyrine、fluorescein isothiocyanate-消化管水分挙動解析に基づく薬物吸収動態変動(相互作用)予測法の確立dextran 4000(FD-4)、およびD-mannitolは富士フイルム和光純薬株式会社(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka)より購入した。TalinololはArzneimittelwerk Dresden(AWD, Radebeul, Germany)より提供して頂いた。ElacridarはSigma-Aldrich(St. Louis, MO)より購入した。アップルジュース(Tropicana Apple Juice)はKirin Beverage(Tokyo)より購入した。その他の化合物と試薬はFUJIFILM Wako Pure Chemical、Kanto Chemicals(Tokyo)、Nacalai tesque(Kyoto)、Sigma-AldrichあるいはInvitrogen Life Technologies(Carlsbad, CA)、Applied Biosystems(Foster City, CA)より購入した。実験動物 Wistar系雄性ラット(230-280 g)は東京動物実験より購入し、飼料と水は自由に与え、恒温(23±1 ℃)、恒湿(55±5 %)、定時照明(12時間明所7:00〜19:00、12時間暗所19:00〜7:00)の人工環境下で飼育した。動物の飼育、実験操作は動物の保護および管理に関する法律(昭和48年 法律第105号)、実験動物の飼養および管理等に関する基準(昭和55年3月総理府公示第6号)、東京薬科大学動物実験指針(平成22年 東京薬科大学学長)に則って行った。In situ closed loop法 実験前日より絶食したラットに三種混合麻酔(塩酸メデトミジン+ミダゾラム+酒石酸ブトルファノール)を腹腔内投与した麻酔条件下にて開腹し、空腸および回腸(それぞれ10 cm)、大腸(7 cm)を用いて腸管結紮ループを作成した。なお、十二指腸(胃から3 cm)から下部へ10 cmの部位を空腸、盲腸から上方へ10 cmの部位を回腸、盲腸から下方へ7 cmの部位を大腸とした。その後、空腸、回腸および大腸ループ内にそれぞれ1 mLの薬液(非吸収性マーカーFD-4、低膜透過性モデル薬物atenolol、または高膜透過性モデル薬物antipyrine)を添加することで吸収実験を開始(37 ℃保温条件下)し、設定時間の経過後にサンプリングを行った。一旦、ループ内の薬液を空気で押し出して回収し89
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