臨床薬理の進歩 No.41
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結  論謝  辞必要があると考えられた。 一方、上述した通り、消化管内水分挙動をより正確に捉えるためには、服用された水分の吸収や生体液の分泌/再吸収、さらにはその部位差や移行過程などを複合的に考慮する必要がある。このうち水分/生体液の分泌特性や消化管内移行過程については、既に検討を開始しており、将来的には、その結果を基盤にした数理解析を介して、より詳細かつ精密な生理学的薬物吸収動態予測モデルの確立にチャレンジしたいと考えている。 消化管内の水分環境は、飲食(ジュース類・緑茶や高脂肪・高カロリー食など)、疾患/病態(炎症・潰瘍やがんなど)、薬物治療(胃酸産生抑制や蠕動運動亢進など)、薬物毒性/障害(下痢・嘔吐や出血・びらんなど)など、その状態に応じて大きく変化すると推察される。したがって、本研究とその応用展開から確立される予測モデルは、新規化合物の経口吸収予測や消化器毒性予測に基づく医薬品開発への応用から、薬物相互作用を巡る医薬品の適正使用や消化器疾患に対応する個別化薬物療法への臨床応用に至るまで、多岐にわたる貢献に期待できる。 多彩な消化管生理機能の中にあって、最も重要な薬物吸収動態規定因子の一つであるはずの消化管内「水分」は、長年にわたり、完全なブラックボックスとして扱われてきた。実際に、日米欧の医薬品規制当局(PMDA/厚生労働省、FDA、EMA)でも、薬物動態に関わる消化管内水分量を、コップ一杯の水の量(250 mL)で定義しており、生理学的に全く根拠のない数値が簡易的に適用されている。消化管水分挙動解析に基づく薬物吸収動態変動(相互作用)予測法の確立同様に、従来から用いられている薬物吸収性予測手法も、その迅速性と簡便性を優先するために、実際の消化管生理環境を簡略化し過ぎている。これらの事実が、年々低下傾向にある経口医薬品の開発効率や、臨床における質の高い医療の実践にどの程度の影響を及ぼしているかは断言できないが、本研究を通じて、生命の基盤でありながら不可視で捉えどころのなかった消化管内「水分」動態に一石を投じたことで、将来に向けて、薬物吸収動態予測の高精度化を実現するための有益な知見と新規な方法論を提供できたものと確信している。 以上より、合埋的かつ高精度な薬物吸収動態予測法を確立するためには、消化管内における薬物動態特性のみならず水分動態特性についても考慮した統合的な解析が重要であることが明らかとなった。本研究を基盤にして確立される新しい薬物吸収動態変動(相互作用)予測システムは、医薬品開発の効率化はもちろんのこと、薬物相互作用を巡る医薬品の適正使用や個別化薬物療法の実践など、多岐にわたる境遇で貢献できるものと期待される。 本研究の遂行にあたり、研究費の助成を頂きました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深く感謝いたします。99

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