対象と方法いるが1,2)、周術期においては注射薬を用いた方がその管理は容易である。ニトログリセリン(GTN)は冠動脈血流の改善に広く使用されている薬物であり、ニトロプルシドやアルプロスタジルと比較して体循環への影響が少ないとされている3)。しかし、周術期の小児患者を対象にした前向き研究やランダム化比較試験が少ないため、成人の肺高血圧治療法を参考にして小児患者の治療法が模索されているのが現状である。 自治医科大学とちぎ子どもセンター小児手術集中治療部および小児先天性心臓血管外科では、周術期の肺高血圧に対して右心負荷軽減を目的としたGTNの持続静脈内投与法を第一選択としている。しかし、小児に対するGTNの治療域や安全性に関するエビデンスが少なく、自治医大病院では2〜6 μg/kg/minの範囲で経験に基づいて投与している。そこで、小児肺高血圧に対するGTNの薬物動態/薬力学解析を行い、GTNの適正投与方法の確立を目的として本臨床研究を実施した。GTNは体内で代謝される過程でNOを供給し、血管平滑筋細胞内のcGMPの増加を介して血管拡張作用を発現する。このGTNからNOの遊離には2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が関与しており、GTNは1,2-glyceryl dinitrateとNOに分解される4,5)。そこで、GTNの薬物動態および治療効果に及ぼすALDH2遺伝子多型の影響についても検討した。試験のスケジュール 自治医科大学附属病院とちぎ子ども医療センター(下野市)にて、手術を受ける予定の小児先天性心疾患患者のうち、肺高血圧症を合併している患児を対象として臨床研究を行った。対象患者の組み入れ基準は、心内修復術後に肺/体血圧(PP/PS)比≧0.3あるいは肺血管抵抗(PVR)≧3 Wood unit・m2とした。除外基準は姑息手術症例、単心室症例とした。本臨床研究のプロトコールは、本学附属病院臨床研究等倫理審査委員会にて審査肺高血圧を伴う小児先天性心疾患患者におけるニトログリセリンのPK/PD/PG解析を受け、施設長から実施の許可を得て実施した(臨B19-010)。また、本臨床研究の内容を大学病院医療情報ネットワークに登録した(UMIN000026382)。手術前の麻酔科外来受診時に、患児の代諾者(父母)に対して文書を用いて研究内容に関する説明を行い、書面による同意を得て研究を行った。また、ALDH2の遺伝子多型解析ついては、自治医大遺伝子解析研究倫理審査委員会で審査され、実施の許可を得た(遺19-016)。麻酔科術前外来受診時あるいは手術後PICUにて治療・管理中に、患児の代諾者(父母)に対して文書を用いて研究内容に関する説明を行い、書面による同意を得て研究を行った。 2017年3月から2018年8月の期間に18症例から同意が得られた。そのうち3例の新生児ではGTN濃度測定の精度に課題が生じたため、本解析対象から除外した。解析対象となった15例の背景をALDH2遺伝子多型別(野生型群=*1/*1、変異型群=*1/*2+*2/*2)に表1に示した。 手術中に、循環動態観察のために末梢動脈ライン、中心静脈ライン、術野から肺動脈(PA)ラインおよび左房(LA)ラインを留置し、それぞれの圧を連続モニタリングした。周術期において体血圧(ABP)、中心静脈圧(CVP)、肺動脈圧(PAP)および左房圧(LAP)を記録した。 GTNの持続投与は、術後PICU入室後より2 μg/kg/minの速度から開始した。GTNの投与速度の増量は30分以上の間隔を空けて実施し、PVRに応じて1または2 μg/kg/min ずつ増量した。また、GTNの最大投与量は10 μg/kg/minとした。ただし、肺高血圧発作が出現した場合はGTNの緩徐増量を中止し、急速増量を行うプロトコールとした。PVRの低下率がGTN投与開始前と比較して30% 以上となればそれ以上の増量は行わず、その時点での投与速度を維持した。 循環動態に関する評価項目はABP、PAP、体血管抵抗(SVR)およびPVRとし、GTN投与開始前および増量後30分以上経過し各パラメータが安定した時点での数値を採用した。また、GTN投与開始前および投与量増減直前に末梢動脈ライン、PA117
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