臨床薬理の進歩 No.41
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*1 OSUMI TOMOO 大隅 朋生*1 背景と目的要   旨Key words:小児、造血幹細胞移植、ブスルファン、慢性肉芽腫症、レベチラセタムon hematopoietic stem cell transplantation for children 造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation; HSCT)は小児の血液・腫瘍・免疫などの分野の難治性疾患に対する根治的治療の一つとして位置付けられ、本邦では年間に400件以上の移植が実施されている。病態の理解や支持療法の向上に伴って移植技術が進歩し、移植後の生存率は向上しているが、改善の余地は残されている。とくに小児の場合は、長期生存例における性腺障害や成長障害などの長期的な晩期合併症が大きな問題である。さらに現在の小児に対するHSCT実施においては、国外もしくは成人の研究から得られたエビデンスを外挿して用いていることが多く、本邦の小児における質の高いエビデンスは限られている。今後、真の意味で造血幹移植法を改善していくためには本邦で実施した臨床研究・The optimization in busulfan-based conditioning 造血幹細胞移植(HSCT)の前処置に用いる重要な薬剤であるブスルファン(BU)に関して二つの研究を実施 した。第一に、HSCTが根治的治療である慢性肉芽腫症(CGD)に対して、用量調整BUを組み込んだ前処置を 用いたHSCTの有効性、安全性を検証する前方視的臨床試験を実施した。少数例の検討ではあるが、用量調整BUを 用いた前処置はCGDに対する標準的な方法となりうる結果を示し、同様の前処置を使用する多施設共同第Ⅱ相 試験を実施中である。第二に、BUの重要な有害反応であるけいれん予防薬として、新しい抗けいれん薬である レベチラセタムの使用の安全性と有効性を検証するための後方視的検証を行った。結果として、レベチラセタムは BUのけいれん予防薬として比較的安全に使用可能かつ有効であること、またBUの血中濃度に大きな影響を 及ぼさないことを示した。両研究ともに今後も症例を重ね、さらなる研究の発展につなげていく。国立成育医療研究センター 小児がんセンター基礎研究の成果を積み重ねていくことが必要である。 造血幹細胞移植術を構成する最も大きな要素の一つが主に抗がん剤を用いた前処置である。残存する悪性腫瘍細胞の根絶と、生着のための免疫抑制との両方を目的とした前処置には、古典的には全身放射線照射が最も広く行われていたが、小児において全身放射線照射を行うことは、急性期だけでなくさまざまな晩期合併症の誘因となるため、できるかぎり全身放射線照射を減量・回避することが目指されてきた。 移植前処置において全身放射線照射の代替として用いられている代表的な薬剤がブスルファン(Busulfan, BU)である1,2)。しかし、BUは放射線照射を避けたHSCTを可能としたが、薬物の代謝に個人差があることが大きな欠点であり、添付文書に記載されている通りの年齢・体重あたりで投与125小児の造血幹細胞移植前処置におけるブスルファン投与法の最適化

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