結 論謝 辞利益相反することで、より有用性の高いバイオマーカーの構築にも繋がる可能性がある。血清ペリオスチンとYKL-40濃度を組み合わせたACO診断バイオマーカーは我々が先に報告したが2)、本研究の結果より、miR-15b-5p発現量をさらに組み合わせることでACO診断モデルのAUROCが有意に上昇した。これは、miR-15b-5pがペリオスチンやYKL-40とは異なる分子を制御している可能性を示唆しており、今後miRNAが制御する遺伝子やタンパクとの関連を検証することが重要と考えられる。 本研究ではさらに、COPD患者においてサイトカインを標的とした新規喘息治療薬の有効性が期待できる患者の層別化に向け研究を行った。COPD患者に対する抗IL-5受容体抗体であるベンラリズマブの有効性を評価した第3相試験では、有意なアウトカム改善効果は立証されず8)、バイオマーカーを用いCOPD患者をより層別化することの重要性が訴えられている。我々はCOPDと喘息との類似点として、それぞれの一部の患者において認められるステロイド抵抗性に着目した。喘息患者における検討の結果、ステロイド治療に対する抵抗性に関与する分子として、新たにGLCCI1、Nrf2およびHDAC2を見出し、これら分子の遺伝子発現量の低下が吸入ステロイド薬による治療を受けている喘息患者における予後の悪化に繋がることを明らかとした6)。さらに、これら分子の遺伝子発現量はベンラリズマブ治療によって増大することが示され、ステロイド抵抗性の解除・軽減に有用である可能性が示唆された。 COPD患者におけるステロイド抵抗性の機序にHDAC2が関与することが既に報告されており9)、喘息患者において抵抗性の機序と類似性が示された。今後さらに、GLCCI1やNrf2とステロイド抵抗性との関連をCOPD患者において明らかにすることがCOPD患者における治療層別化バイオマーカーの構築重要であるが、これら分子がCOPD患者においてもステロイド抵抗性を予測可能なバイオマーカーして有用性を示す可能性は高いと考えられる。従って、COPD患者においても喘息の特徴を有する患者に対してステロイドを用いた治療を行う場合には、ステロイド抵抗性を評価するバイオマーカーとしてGLCCI1、Nrf2、HDAC2遺伝子発現量を用い、抗IL-5受容体抗体などステロイド治療以外の治療法を選択することが可能になるものと考えられる(図5)。 COPD患者におけるプレシジョンメディスンの実現を目指し、病態の層別化および最適な治療法の構築を目的とした本研究において、COPD患者の中で喘息の特徴を有する患者の診断を可能とする新たなバイオマーカーの構築に成功した。さらに、これら喘息の特徴を有するCOPD患者において、ステロイド治療に対する有効性を予測するバイオマーカーも新たに見出した。これらの知見は、COPD患者において喘息治療薬で治療可能な患者の特定と予後改善に向けた治療の層別化を実現するものと考えられる。 本研究を遂行するにあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。 本研究に関し開示すべき利益相反はありません。139
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