臨床薬理の進歩 No.41
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SGLT2図3 SGLT2阻害薬とメガリンの関係メガリンとの関連について検討した。2型糖尿病患者の尿中EVsは、健常人と比較して、正常アルブミン尿期から増加し、微量アルブミン尿期、顕性アルブミン尿期とさらに増加することが明らかになった6)。さらにEVsあるいはエクソソームに含まれるメガリン含有量もアルブミン尿の増加に従って特異的に増加することがわかった。これはすなわち、DKDの発症・進展にリンクして、メガリンを搭載したエクソソームが尿中に増加することを意味しており、尿中C-メガリンの定量はそれを反映していることが分かった6)。高脂肪食負荷マウスでも尿中C-メガリン排泄が増加するとともに、培養近位尿細管細胞にアルブミンあるいは終末糖化産物(AGE)の修飾を受けたアルブミンを添加すると、リソソーム系の負荷により、細胞のエクソサイトーシスが亢進し、メガリン(全長型)を搭載したエクソソームの排出が増加することが分かった6)。以上のことから近位尿細管細胞において、量的あるいは質的タンパク質代謝負荷によって、エクソソームの放出を介して、尿中C-メガリン排泄が増加することが明らかになった。ちなみに我々は、小児の有熱性尿路感染症後に発症する腎瘢痕の診断に尿中C-メガリンが有効であるという知見を得た7)。すなわち尿中C-メガリンは、残存する機能ネフロンにどれくらいの負荷がかかっているかを表すマーカーになりうると考えられる。日本人は潜在的にネフロン数が少なく、かつその数が少ないことが高血圧やCKDの発症に関わることが示唆されている8)。したがって尿中C-メガリンは、潜在的に機能ネフロン数が減少しているところにどれくらいの負荷がかかっているかを検出できるマーカーと考えられる。 DKD診療においては、近年新規血糖降下薬が注目されている。Sodium glucose cotransporter 2 (SGLT2)は腎臓の近位尿細管に存在するトランスポーターであり、糸球体を濾過されたブドウ糖の再吸収を担っている。このSGLT2を阻害するSGLT2阻害薬が発売されてから、大規模臨床研究において心血管イベントを抑制する効果が報告されてきた。心血管疾患を持つ糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬の1つであるエンパグリフロジンを投与したところ、プラセボ群と比較して心血管イベントの発生が有意に抑制されたが、それだけでなく腎複合イベント(顕性アルブミン尿への進展、血清Cr値の倍増、腎代替療法(血液透析など)の開始、腎疾患による死亡)のリスクが低下すると報告された9)。その一方で、一部の臨床研究においてはSGLT2阻害薬投与により尿中のβ2-ミクログロブリン排泄が増加したり10)、動物実験においてはSGLT1、2阻害薬であるフロリジンを投与された動物において、尿中β2-ミクログロブリンやアルブミン排泄が増加したという報告がある11)。これらの蛋白は腎疾患の発症や重症度を評価するバイオマーカーとしても広く知られているが、メガリンのリガンドでもある。すなわち、SGLT2阻害薬投与によるこれら尿中バイオマーカーの変化は、SGLT2阻害薬によるメガリンの発現・機能への影響があると考えられた(図3)。そして、SGLT2阻害薬投与により既知の尿中バイオマーカーの排泄が変化している場合には、尿中メガリンを同時に測定することで病勢を把握することができると考えた。 そこで我々は、臨床において、軽度〜中等度腎機能障害を呈する成人2型糖尿病患者(残存機能ネフロンに過剰代謝負荷がかかっていることが推測される)において、エンパグリフロジンによる腎機能保護作用を検証するとともに尿中メガリン150

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