研究内容について写真6 私の留学1周年記念ランチ私(左)、Dr. Tetri(左から2番目)、テクニシャンのVanita(右から2番目)、研究員のBarbara(右)。います。セントルイス大学の医学系研究室は全てメディカルキャンパス内にあるEdward A. Doisy Research Centerというビルディングの中にあります。この建物は2007年に作られた比較的新しいもので、中も広々としていて綺麗でした。Dr. Tetriの研究室はこの建物の2階にありましたが、大学自体がやや高台にありましたので、窓からは遠くにゲートウェイアーチを眺めることができるお気に入りの場所でした。夏休み期間中以外は毎週のように何処かの研究室がJournal Clubを開いていましたので、そこで振る舞われるピザやドーナッツを目当てに(?)時間を見つけて参加していました。日本では自分の仕事に関わる領域以外の話を聞く機会があまりなかったので、学問的にも良い勉強になったのはもちろんですが、いろいろな人のプレゼンテーションに触れるということもとても刺激になりました。 食の欧米化や社会生活の変化により、最近では我が国をはじめとする先進国では生活習慣病が増加し、社会問題となっています。これに伴って非アルコール性脂肪性肝疾患(Non Alcoholic Fatty Liver Disease, NAFLD)の患者も増加傾向にあり、その有病率は3割ほどと言われ今後さらに増加すると考えられています。NAFLDの中でも肝線維化を伴い進行性の疾患である非アルコール性脂肪性肝炎(Non Alcoholic Steatohepatitis, NASH)は肝硬変や肝癌に繋がる予後不良な病態ですが、現在このNASHに適応を持つ薬物療法は存在しないことからその開発が喫緊の課題となっています。そこで今回私はNASHを背景とした肝硬変症に対して有効な薬物治療法の開発を目的とした研究を行いました。近年、アルギニン、グリシン、アスパラギン酸配列を認識するRGDインテグリンを阻害する薬剤が抗線維化作用を持つことが報告され注目されました。 肝臓に限らず線維化促進因子として知られるTransforming Growth Factor β(TGF-β)はLatency Associated Protein(LAP)とlatent TGF-β binding protein-1(LTBP-1)と共に潜在型として分泌され、局所でTGF-βが切り出され活性化しますが、この際にLAPのRGDモチーフが必要です。RGDインテグリン阻害剤はこの反応を阻害することで結果的にTGF-βの効果を減弱させ、抗線維化作用を発揮すると考えられています。このRGDインテグリン阻害剤はCWHM-12という名前が付けられていますが、CWHMとはCenter for World Health and Medicineの頭文字からとったものです。実はこの薬剤は私が所属したDr. Tetriラボと同じ建物内にあるCenter for World Health and Medicineで作られたもので、2013年のNature Medicineで初めてブレオマイシン誘発性の肺線維症マウスと四塩化炭素誘導性の肝線維症マウスに対する改善効果が報告されました。そこで今回私は食餌誘導性のNASHマウスを作製し、RGDインテグリン阻害剤であるCWHM12の効果を検証する実験に取り組みました。●米国セントルイス大学肝臓センター留学記159
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