臨床薬理の進歩 No.41
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 「臨床薬理の進歩2020 No.41」には、2017年度に採択された研究課題に関する論文18編および海外留学助成金報告2編を掲載しました。2020年の4月はじめに本編を編集するために編集委員会を開催しましたが、SARS-CoV2による新型肺炎Covid-19の影響により、リモート開催されました。おそらく編集委員会の歴史の中で最初の事例と思われます。このあとがきを書いている時点では、臨床レベルでCovid-19に対して有効性と安全性が確立した医薬品はありません。エビデンスにもとづいた予防法や治療法を確立するには、多くの研究者の連携が必要です。Covid-19が早期に収束し、来年度は編集委員が集まって編集委員会を開催できることを切に願っています。 さて、臨床薬理研究振興財団は、日本臨床薬理学会との強い連携により運営されています。その臨床薬理学会の前身であります「臨床薬理学研究会」(初代会長・砂原茂一先生)は、基礎実験による薬理学的知識はヒトで確かめられた上で臨床に応用すべきであるとの立場に立ち、科学的基盤に立脚する薬物治療学を目指し、また、新薬の臨床評価の重要性を認識して、1969年に設立されました1)。“新薬の薬効評価”は、現代でいうところのevidence-based medicine(EBM)の根幹となる部分であります。“新薬”は、必ずしも治験薬などの未承認薬の治験に限らず、すでに市販されている医薬品の新しい使い方を模索することも含まれると思います。今から50年前に、“トランスレーショナルリサーチ”という言葉さえもなかった時代に、我が国の臨床薬理学の先駆者である諸先輩方が、基礎研究と臨床応用をつないでいくことの重要性を認識していたことが、現在の臨床薬理学の発展につながったことを強く感じます。 長年にわたる臨床薬理研究振興財団による研究助成により、多くの臨床薬理学研究が進みましたが、同時に多くの若手研究者が育成されてきました。今回も、多くの研究者がこれからの臨床への応用を視野に入れた基礎研究から、患者を対象とした臨床試験まで実に様々な研究を展開していることが読み取れると思います。臨床薬理学は、いうまでもなくベッドサイドの薬理学です。困っている患者さんに対して「科学的基盤に立脚する薬物治療学」を提供できるようにするためには、これからも多くの臨床薬理学研究が進むことを期待しています。2020年5月1)下田 和孝 一般社団法人 日本臨床薬理学会・理事長就任にあたってhttps://www.jscpt.jp/about/index.html上村 尚人168あ と が き

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