のほうが、受容体占拠率曲線の当てはまりは良好であった。しかしながら、最大受容体占拠率は両x軸変数間で同程度であった。また、表2に示したように、x軸変数「用量/体表面積」におけるED50(mg/m2)をED50(mg)へ変換したとき、変換されたED50(mg)はx軸変数「用量」におけるED50(mg)と同程度であった。したがって、istradefyllineによるアデノシンA2A受容体占拠率を算出するとき、x軸変数としてより簡便な「用量」が使用できると言える。 本研究では、腹側線条体と背側線条体(尾状核と被殻)の間で、最大受容体占拠率とED50に、比較的大きな差を認めた。腹側線条体では、最大受容体占拠率:93.5%、ED50:28.6 mgであり、背側線条体では、最大受容体占拠率:65-70%、ED50:10-15 mgであった。腹側線条体は、側坐核と尾状核および被殻の腹側部から構成される。そして、中脳辺縁系神経路の中継核として中脳腹側被蓋野から入力を受け、意思決定や報酬に関する認知機能を制御する。一方、背側線条体は、尾状核および被殻の背側部から構成される。そして、黒質緻密部から入力を受け、大脳基底核回路の直接路と間接路の中核を形成することで、運動機能の修飾に関与する。また、アデノシンA2A受容体の発現量は、背側線条体と比べて腹側線条体で少ない。このような腹側線条体と背側線条体における解剖学的あるいは機能的な違いが、両者の最大受容体占拠率とED50の差を引き起こしている可能性がある。 Preladenant、istradefylline、内因性アデノシンのアデノシンA2A受容体に対する親和性はそれぞれ1.1 nM、12.4 nM、150 nMである11〜14)。したがって、本研究における最大受容体占拠率は100%を示すことも考えられたが、実際の測定値は100%に遠く及ばなかった。つまり、istradefyllineは、preladenantのアデノシンA2A受容体への結合を完全に阻害できないことが示された。近年、サルを対象に11C-preladenant PET研究が行われた15)。11C-preladenant PETの検査前に、preladenant 1 mg/kgを投与すると、線条体のBPNDはほぼ0となった。パーキンソン病におけるアデノシンA2A受容体の病態解析しかしながら、11C-preladenant PETの検査前に、istradefylline 1 mg/kgを投与した場合、線条体のBPNDは0とならなかった。同様に、ラットを対象に11C-preladenant PET研究が行われた16)。11C-preladenant PETの検査前に、istradefylline 1 mg/kgを投与したとき、11C-preladenantのアデノシンA2A受容体への結合を完全に阻害できなかった。これらの動物実験は、istradefyllineが11C-preladenantのアデノシンA2A受容体への結合を完全に阻害できないことを示しており、本研究の結果に合致するものである。完全に阻害できない理由として、アデノシンA2A受容体への結合部位がistradefyllineとpreladenantで異なる可能性が考えられる。また、線条体にistradefyllineは結合できないがpreladenantが結合できるoff-target(非特異的)結合部位が存在する可能性が考えられる。 これまでに、アデノシンA2Aリガンドを用いてパーキンソン病患者を対象に行われた2つのin vivo PET研究が報告されている2,3)。どちらのPET研究もジスキネジアを有するパーキンソン病患者で線条体のアデノシンA2A受容体の発現量が有意に増加したと報告している。しかしながら、増加の程度は比較的小さいことに留意が必要である。実際、三品らの報告では、被殻におけるBPNDは、健常群:1.47 ± 0.11、ジスキネジアを有しないパーキンソン病群:1.48 ± 0.10、ジスキネジアを有するパーキンソン病群:1.58 ± 0.15であった2)。各群の平均値と標準偏差を考慮すると、各群間で、被験者のBPNDの重なりが顕著であったと推測できる。本研究でも、これら2つの先行研究に矛盾せず、健常者群とパーキンソン病群の間で、BPNDに有意差を認めなかった。また、本研究ではジスキネジアを有した1例のパーキンソン病患者のBPNDがやや高い傾向にあったことも(表1)、先行研究に合致したものであった。本研究では、健常群に比し、パーキンソン病群で、BPNDは個人間で大きくばらついた(図2)。これは、パーキンソン病患者の臨床像が不均一であることに起因している可能性がある。つまり、ある要因がアデノシンA2A受容体21
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