考 察他のLQT-iPS細胞モデルにおけるl-cis-Diltiazemの薬効評価 最近、我々は、カルモジュリン遺伝子変異によるQT延長症候群の患者からiPS細胞を作製し、分化心筋細胞においてパッチクランプ法を用いた電気生理学的解析を行ったところ、活動電位持続時間の延長、及びL型カルシウムチャネル電流の不活性化障害を認め、疾患表現型を再現するiPS細胞モデルの確立に成功した12)。このLQT15-iPS細胞モデルを用いて、l-cis-Diltiazemの薬効評価を行った。l-cis-Diltiazem(10 µM)投与により、L型カルシウムチャネルの不活性化障害が改善され(図6)、l-cis-Diltiazemは、LQT8のみでなく、LQT15に対しても有効である可能性が考えられた。LQT8-iPS細胞モデルの確立、発症機序解明 心臓L型カルシウムチャネルαサブユニットをコードするCACNA1C遺伝子は、その変異によりTimothy症候群(QT延長による致死性不整脈、合指症、免疫不全を伴う)という稀な予後不良な疾患を引き起こす。我々は、最近、心以外の症状を伴わない新たなCACNA1C遺伝子変異によるQT延長症候群(LQT8)を報告し6)、LQT8は以前考えられていたより頻度が高いことが分かってきているが有効な治療法は確立されていない。我々は、LQT8の病態解明、新規治療法開発を目指し、疾患特異的iPS細胞モデルを用いた解析を行った。従来から行われている培養細胞における変異チャネル過剰発現系の解析では、心筋細胞ではないため活動電位記録はできず、新たな解析法である患者由来iPS細胞を用いた解析法は、“ヒト心筋”を解析できる画期的な手法である。我々は心外症状をもたないLQT8症例において、iPS細胞を作製、分化心筋の解析を行い、L型カルシウムチャネル不活性化遅延による再分極遅延を示す疾患モデルの作製に初めて成功した。L型カルシウムチャネル不活性化遅延に関して、Timothy症候群の変異におけるiPS細胞モデルを用いたQT延長症候群に対する新規Ca2+チャネル抑制メカニズムによる治療法開発障害13)に比べてA582D変異の方が軽度であり、障害の程度が、心外症状の有無や不整脈の重症度と関連していると推察された。LQTに対するl-cis-Diltiazemの治療効果 L型カルシウムチャネル不活性化遅延を促進する薬剤は、Timothy症候群のiPS細胞モデルにおいて、CDK阻害薬であるRoscovitineの薬効が報告されているが、高濃度が必要で臨床応用は難しい4,13)。このL型カルシウムチャネルの不活性化遅延を改善する候補薬として、カルシウムチャネル拮抗薬を中心に網羅的に検討を行ったところ、臨床で用いられるd-cis-Diltiazem(Herbesser®)の立体異性体、l-cis-Diltiazemが有効であることを発見した。l-cis-Diltiazemは、薬理研究において網膜桿体細胞の環状ヌクレオチド感受性チャネルの拮抗薬として知られているが14,15)、心臓イオンチャネルに対する作用は詳しく調べられていない。 Diltiazem hydrochlorideは、日本の田辺製薬(現、田辺三菱製薬)により合成・開発されたベンゾチアゼピン誘導体のカルシウムチャネル拮抗薬であり、血管平滑筋の電位依存性L型カルシウムチャネルを濃度依存性にブロックすることにより、血管拡張作用を発揮し、高血圧症や狭心症に適応を有する。一方、心臓の刺激伝導系におけるカルシウムチャネルも抑制し、抗不整脈薬としても使用されている。本剤には、光学異性体としてD型とL型があるが、現在、臨床使用されるのはD型である。今回、我々は、L型立体異性体であるl-cis-Diltiazemが、電位依存性L型カルシウムチャネルピーク電流抑制は起こさずに、その不活性化過程を有意に促進することをLQT8-iPS細胞モデルを用いた解析(図1、2、3)で明らかにした。LQT15-iPS細胞モデルにおいても弱いながら不活性化遅延改善効果を認め(図6)、カルシウム過負荷がベースにあるLQT全体においても有効な治療法になり得ると考えられた。また、l-cis-Diltiazemは、d-cis-Diltiazem(Herbesser®)と比べてピークL型カルシウムチャネル電流を抑制しないことから、心臓に対する陰性変力作用が29
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