臨床薬理の進歩 No.41
51/216

考  察謝  辞アンケート調査の結果を解析した。プラセボ群の2例は、経過中に自覚症状の変化を認めなかったが、1例は内服7日後に、軽度の下痢症状を訴えた。TSO内服群の9例のうち、5例は消化器症状などの自覚症状は一切認められなかった。TSO 7500群の1例は、介入前より1日2〜3回の慢性的な下痢症状を認めており、TSO内服後も、その頻度に変化はなかった(表2)。腹痛と腹部膨満感は、下痢症が出現した症例に随伴して報告される傾向にあった。 有害事象と考えられる症状を呈したのは、各群に1例ずつ、計3例存在した。各症例の経過は、表3にまとめた。その後の転帰については、No.4は定期診察時(PID14)に症状は軽快しており、血液検査も異常を認めなかったため、試験で定めた検査以外の評価は実施していない。No.7は定期診察時(PID56)の血液検査で著明な好酸球増多を認めたため、同日、臨床医による診察を受けた。診察では自覚症状、他覚症状を認めず、被験者はその後の診療を希望しなかったため、体調の変化を自覚した際に受診するよう指導し帰宅した。1ヶ月後の電話による体調確認では、体調不良を認めなかった。No.12はPID49に粘血便を認めたため、同日、定期外受診した。受診時に実施した便培養、便検鏡では粘血便以外の異常所見は認めず、腹痛に対してスコポラミンを処方した。症状は3日間で消失し(PID52)、PID56の定期受診時には軽快していた。 本試験は、12例の健康な日本人成人男性を対象に、TSO製剤の安全性を評価する目的で実施された。その結果、重篤な有害事象は確認されなかった。また、診察による他覚的所見も認められなかった。ただし、自覚症状のアンケートでは、複数の軽度から中等度の有害事象が報告され、それらは消化器症状のみであった。全フォローアップ中のイベント発生率を、イベント件数を分子、被験者数×内服後の受診回数を分母(TSO内服群:9例×4回=医療用豚鞭虫卵製剤の日本人における安全性・認容性について-単施設二重盲検ランダム化比較試験-36、プラセボ群:3例×4回=12)として計算した。TSO内服群では、下痢19.4%(7/36)、腹痛25.0%(9/36)、腹部膨満感13.9%(5/36)、嘔気2.8%(1/36)であった。プラセボ群の報告は、下痢33.3%(4/12)、腹痛0%(0/12)、腹部膨満感0%(0/12)、嘔気0%(0/12)であった。十分に根拠のある比較を行うには症例数が不足しているが、本試験では、プラセボ群とTSO内服群の下痢症の発生率は同等、もしくはプラセボよりもTSO内服群で低い傾向にあった。腹痛、腹部膨満感、嘔気はTSO内服群でのみ認められた。 一方で、介入前に下痢症状がなく、試験開始後の経過観察中に下痢症が出現した症例は、いずれもTSO内服群であった。下痢症状が、腹痛や腹部膨満感の出現と一致しているため、TSO内服に由来する消化器症状であった可能性が高い。有害事象と判断された3例を含むTSO内服群の糞便からは、虫体も虫卵も検出されなかった。本試験の被験者の腸管内では、豚鞭虫は十分に成長できず、未成熟な状態で排出された可能性が高い。 本試験結果と既報を比較すると、本研究の有害事象の発生率は、IBD患者を対象とした欧米の研究と同等であり3)、花粉症患者を対象とした欧米の研究より低率であった5)。本試験は、健康成人を対象とした研究であるため、被験者の背景を考えると、花粉症患者を対象とした研究に近いと考えられる。つまり本試験の結果は、日本人は欧米人に比べ、TSO内服による有害事象が少ない可能性を示唆している。ただし、本試験の例数は少数であるため、エビデンスの構築には、より多くの被験者(さらには自己免疫疾患に罹患した患者)を対象とする必要がある。 本研究の遂行にあたり、研究費の助成をいただきました臨床薬理研究振興財団に深く感謝いたします。またTSO製剤の情報や、製剤の調達にご協力いただいたDetlev Goj博士に深謝いたします。37

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る