対象と方法細胞内でリン酸化を受け、最終的に三リン酸化物(dFdCTP)に代謝され、腫瘍細胞の発育を抑制すると考えられている。GEM単独療法の第Ⅰ相試験では、投与開始15分で最高血中濃度に達し、dFdCTPの細胞内濃度は、投与量35-250 mg/m2の間では用量に比例して増加したが、投与量350 mg/m2以上では、dFdCTP濃度は飽和状態となった11)。この報告をもとに我々は以前に、1,000 mg/m2(標準用量)GEM単独療法とdFdCTPが飽和に近い状態となる250 mg/m2(低用量)GEM単独療法の小規模な比較試験を実施した12)。同試験では21歳以上、ECOG PS 0-2の切除不能進行・再発膵癌を対象とした。両群で21例が登録され、登録された症例の年齢は、標準用量GEM群の中央値67.9歳、低用量GEM群の中央値66.2歳であった。生存期間中央値は低用量GEM群7.2カ月、標準用量GEM群5.2カ月であり、低用量GEM群においても良好な成績が報告された。一方で、有害事象の発現割合については標準用量に対して低用量GEM群で有意に低いことが確認された(p<0.05)。特にGrade3/4の血小板減少に関しては、低用量GEM群と標準用量GEM群でそれぞれ、0%、30%であった。 以上より、本試験の低用量GEM+nab-PTX併用療法に関してはnab-PTXの用量は標準用量群と同様の125 mg/m2、GEMの用量は250 mg/m2に設定した。現時点で高齢者を対象としたGEM+nab-PTX併用療法の有効性および安全性の情報は得られていない。そのため、本試験の対象を65歳以上に設定した根拠は乏しいが、今回は遠隔転移を有する膵癌における現在の治療体系を参考にした。国内外のガイドラインではGEM+nab-PTX併用療法と並び、FOLFIRINOX療法が遠隔転移を有する膵癌に対して第1選択として推奨されている。FOLFIRINOX療法に関しては日本膵臓学会監修の適正使用情報によると、高齢者は慎重投与に該当するが、具体的には65歳以上と設定されている。つまり、65歳未満の若年者においてはGEM + nab-PTX併用療法だけではなくFOLFIRINOX療法も適正使用の対象である。一方で、本試験の対象である65歳以上においてFOLFIRINOX療法は慎重投与に該当するため、この対象には限定的な使用となる。そのため、低用量GEM + nab-PTX併用療法は、若年者よりも選択肢の少ない高齢者に対してよりニーズが高いと考えられる。標準用量と低用量GEM + nab-PTX併用療法のランダム化比較試験を実施するにあたって、65歳以上の高齢者を対象に設定する意義はある。このように慎重に検討は重ねたが、試験群により不利益(有効性の欠如)を被る可能性があるため、今回の試験では早期中止の基準を設けており、低用量GEM + nab-PTX併用療法群で著しく有効性が乏しい場合にはリスクを最小限に抑える配慮も行った。適格基準1)腺癌または腺扁平上皮癌であることが病理学的検査にて確認されている。2)遠隔転移を有する。3)測定可能病変を有する。登録前28日以内に画像検査を実施している。4)膵癌に対する切除以外の前治療が実施されていない。術前・術後補助化学療法を実施した症例は、最終投与日から24週を超えて(終了翌日を1日目として169日目以降)再発が確認された場合は登録可とする。5)登録時の年齢が65歳以上である。6)ECOG Performance Status (PS)が0または1である。7)主要臓器の機能が十分に保持されている。 (登録前14日以内の検査値により、以下の基準が満たされている。) 白血球数 好中球数 ヘモグロビン量 :9.0 g/dL 以上 血小板数 総ビリルビン値 : 基準範囲上限×1.25以下 ASTおよびALT値 :基準範囲上限×2.5以下:12,000 /mm3以下:1,500 /mm3以上:100,000 /mm3以上42
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