臨床薬理の進歩 No.41
64/216

*1 KANEDA (KUBO) MICHIKO *2 UMEKAWA TAKASHI *3 MAKI SHINTARO *4 TANAKA KAYO *5 IKEDA TOMOAKI 金田(久保) 倫子*1  梅川 孝*2 真木 晋太郎*3 田中 佳世*4 池田 智明*5はじめに要   旨Key words:胎児発育不全、タダラフィル、PDE5阻害薬、妊娠高血圧症候群、L-NAMEDevelopment of tadalafil treatment for fetuses with fetal growth restriction 厚生労働省の「出生に関する統計」によると、1980年に5.2%だった低出生体重児(2,500g未満の出生児)の割合は、1990年に6.3%、2000年に8.6%、2009年に9.6%と増加傾向にある。出生体重が漸増している先進諸国の中で、減少を続ける日本の現在の状況は非常に特異的で、かつ重要な問題とされる。近年の新生児・周産期医療の進歩により、低出生体重児の死亡率は激減し、わが国の新生児死亡率、乳児死亡率は先進国の中でも良好だが、一方でより未熟な児や重症例の生存が増加したことにより、神経学的障害合併頻度の改善はみられず、在宅医療など退院後の支援が必要な例も増加して 胎児発育不全(fetal growth restriction : FGR)は、周産期医療において非常に重大な疾患であるが、胎児の状態の評価を行いながら、娩出時期を決定するのみで、現在のところ、胎内治療は存在しない。我々は、ホスホジエステラーゼ5阻害薬:タダラフィルに着目し、研究を重ねてきた。今回、第Ⅱ相多施設共同前向きランダム化並行群間比較試験では、胎児・新生児・乳児死亡において、タダラフィル治療群が有意に減少しており、また、タダラフィルと因果関係のある重篤な有害事象は認めなかった。さらに、32週未満のFGRにおいて、タダラフィルによる妊娠延長効果を見いだした。基礎研究では、タダラフィルの脳神経発達に与える影響の検討にて、hypoxia-inducible factor-2α、glial fibrillary acidic proteinやmyelin basic protein、synaptophysinの発現を評価し、タダラフィルはFGRにおいて、胎児発育を改善させ、出生児の脳神経を保護する可能性が示唆された。以上より、タダラフィルはFGRの新規治療法として期待されると考えられた。三重大学医学部附属病院 産科婦人科      同   上      同   上      同   上      同   上いる。また、低出生体重児では神経学的障害を合併しない児であっても、学童期の行動障害や学習障害の頻度が高く、高血圧、糖尿病など成人病の発症リスクが高いことも報告されており、低出生体重児を減らすことは、今後、少子化と医療費の増大が懸念されるわが国において、極めて重大な課題である。 在胎週数相当の胎児推定体重と比較して小さい、胎児発育不全(fetal growth restriction : FGR)においては、周産期死亡率が高く1)、生存した場合も脳性麻痺や広汎性発達障害が増加し、問題となる2,3)。FGRの重症度と児の神経学的予後は関連し、児体重のパーセンタイルが減少し、FGRの重症度が増すほど、児の予後は不良となる。特に3~5パーセン50胎児発育不全に対するタダラフィル投与による新規治療法の確立

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る