考 察謝 辞 今回、「FGRに対するタダラフィル母体経口投与の有効性・安全性に関する臨床研究 第Ⅱ相多施設共同研究」は、有効性・安全性を示すことを目的としていたが、試験の中断により安全性を解析する結果となった。安全性の評価として、胎児・新生児・乳児死亡についてタダラフィル治療群と従来型治療群とで比較したところ、従来型治療群で7例であったのに対して、タダラフィル治療群で1例と有意に減少していた。オランダのSTRIDERグループからシルデナフィル治療群で遷延性肺高血圧症による新生児死亡が増加した18)と報告されたが、本研究とは異なる結果であった。その理由として、タダラフィルとシルデナフィルの作用機序の相違が考えられる。Walton RBら19)は、シルデナフィルは胎児血管の拡張と血圧低下をもたらすが、タダラフィルでは胎盤通過時に不活性化され、胎児側への直接作用は認められなかったと報告している。我々のL-NAME誘導モデルマウスを用いた研究では、タダラフィル投与によりHDP、FGRの改善がみられた。その理由として、タダラフィルにより、母獣血管洞が拡張することで、子宮胎盤循環が改善し、胎盤の虚血・低酸素状態が改善したことが挙げられる。一方、胎盤の胎仔毛細血管の拡張は認めないとの結果であったため、タダラフィルが胎仔循環へは作用しない可能性が示唆された。基礎研究の結果からも、胎児側への直接作用の有無が、胎児・新生児・乳児死亡の相違となった可能性がある。なお、サブ解析ではあるが、STRIDER試験とは異なり、登録時の妊娠週数が30週未満、32週未満の症例においてタダラフィル治療群で有意な妊娠延長効果を認めていた。今回の我々の臨床研究ならびに基礎研究においては、器官形成期を過ぎた時期からタダラフィル投与を開始しているため、催奇形性については問題となっていない。 基礎研究において示された仔の脳神経保護作用については、FGRに対する胎内治療の重要性を改めて認識する結果となった。現在の周産期新生児胎児発育不全に対するタダラフィル投与による新規治療法の確立医療において、FGRの管理は有効な胎内治療が存在しないことから、胎児状態悪化を見極め、「いつ妊娠を終了するか」ということに主眼がおかれている。これまでの大規模研究によって、最適な妊娠終了時期の検討がなされているものの、児の神経学的予後を改善した報告はない。したがって本研究で示唆されたタダラフィルによる胎内治療の脳神経保護作用(シナプス数の増加、髄鞘化の改善、炎症性変化の軽減)を、今後、動物での行動実験やTADAERⅡで出生した児のフォローアップ等で示すことができれば、児の神経学的予後改善に大きく寄与することができる。 今後、臨床研究においてはさらなるエビデンスの確立を目指し、後期第Ⅱ相試験として、現在「胎児発育不全に対するタダラフィル母体経口投与の有効性・安全性に関する臨床試験 プラセボ対照ランダム化比較第Ⅱ相多施設共同研究(TADAFER Ⅱb)」を開始している。 本研究の遂行にあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深く御礼申し上げます。また、本研究にご協力いただいた患者様、研究協力施設の関係者の皆様に深謝いたします。TADAFERⅡ研究協力施設(順不同)信州大学、長崎医療センター、琉球大学、大阪大学、横浜市立大学、三重中央医療センター、東邦大学医療センター大森病院、昭和大学、滋賀医科大学、名古屋大学、トヨタ記念病院、市立四日市病院、市立札幌病院、東京都立多摩総合医療センター、佐賀病院、京都大学、三重県立総合医療センター、獨協医科大学、海南病院、山口大学、浜松医科大学、富山大学、富山県立中央病院、東京都立墨東病院、東京慈恵医科大学、聖マリアンナ医科大学、榊原記念病院、桑名東医療センター、杏林大学、京都府立医科大学、岐阜大学、金沢大学、神奈川県立こども医療センター、愛媛大学、愛媛県立中央病院、伊勢赤十字病院、秋田大学59
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