臨床薬理の進歩 No.42
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対象と方法抗精神病薬である。関係する受容体は、ドパミン作動性受容体、セロトニン作動性5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)2a型(5-HT2a)、5-HT2c型(5-HT2c)、3型(5-HT3)、6型(5-HT6)受容体、カテコラミンα1アドレナリン受容体、アセチルコリン・ムスカリン受容体およびヒスタミンH1受容体であり8,9)、特に5-HT2cと5-HT3に対する作用から、オランザピンが制吐剤として期待されつつある9)。 本邦および海外のガイドラインにおいて、HECレジメンではニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンによる3剤制吐療法が最適な制吐療法として推奨されていたが6,8,10)、これらの制吐剤を用いた予防を行ってもCINVの制御は不十分であった。制吐剤としてオランザピンを追加するとCINVコントロールが改善することが示され11)、最近ではシスプラチンまたはシクロホスファミドとアントラサイクリンレジメンを対象としたプラセボ対照第Ⅲ相比較試験において、オランザピンの併用によって、CINV発現頻度の減少や完全奏効割合の増加が確認された12)。このような知見に基づき、現在の国際的なガイドラインでは、HECレジメンに対しては、オランザピンを含む4剤制吐療法が推奨されている4)。 MECレジメンでは、5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンによる制吐療法が推奨されている6,10)。カルボプラチンは、以前はMECに分類されていたが6,10)、特に遅発期において強い制吐作用を有することが認識され8,13)、現在ではMECとは独立して分類されている4)。我々が行った検討では、カルボプラチンレジメンでNK1受容体拮抗薬を用いた3剤制吐療法によって、全期間の完全奏効割合80%のコントロールが得られた13,14)。他の研究グループによる報告でもカルボプラチン投与時にNK1受容体拮抗薬を併用することの有用性が確認され、現在のガイドラインではカルボプラチン投与時の制吐療法としてNK1受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンの3剤併用が推奨されている4)。しかしながら、依然として遅発期の悪心・嘔吐の制御は不十分で、治療上の問題となっている。シスプラチンを含むHECレジメンでオランザピンを併用することで、悪心・嘔吐を抑える効果が20-30%程度高まることより12)、カルボプラチン投与時にオランザピンを併用することは有望な選択肢と考えられるが、カルボプラチン投与時のオランザピン併用4剤制吐療法の有効性および安全性は不明である。 今回、カルボプラチンを含む初回化学療法を受ける進行期および術後再発の肺癌患者を対象として、NK1受容体拮抗薬アプレピタント、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンにオランザピンを追加する前向き第Ⅱ相試験を行い、4剤制吐療法の有効性と安全性を評価した15)。研究デザイン 本研究はヘルシンキ宣言に基づいて、多施設共同前向き、単アーム、非盲検第Ⅱ相試験として行われた。研究実施計画書は各参加機関の倫理委員会によって承認され、全ての患者からインフォームド・コンセントを得て実施した。本試験は大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)臨床試験登録簿(UMIN ID 000026739)に登録した。なお本論文に関して、開示すべき利益相反関連事項はない。患者の適格性 手術不能なstageⅢBまたはⅥ期、術後再発の肺癌でカルボプラチンをベースとした初回化学療法を受ける患者を対象とした。その他の適格基準として年齢20歳以上、十分な骨髄造血機能、腎機能、肝機能を有すること、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のPerformance Statusが0または1であることとした。小細胞肺癌患者ではPerformance Statusが2の患者も適格とした。除外基準は化学療法開始前24時間以内の悪心・嘔吐が認められた患者、48時間以内に制吐剤を使用した患者、糖尿病患者とし、症候性の脳転移、消化管閉塞や活動性消化管潰瘍を有する患者は除外した。86

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