山田 忠明*1 大倉 直子*2 吉村 彰紘*3 髙山 浩一*4はじめに要 旨 肺がんは治療抵抗性の難治性固形がんであり、有効な治療法の開発が急務である。肺がんのうち、EGFR活性型遺伝子変異などのdriver遺伝子異常を有する症例では、その阻害活性を有する治療薬が臨床開発され、良好な治療成績が示されている。なかでも、第三世代EGFR阻害薬オシメルチニブはEGFR変異陽性肺がんの初回治療において従来の第一世代EGFR阻害薬よりも良好な治療成績が示され、実臨床において汎用されている。しかしながら、すべての症例は一定の治療期間を経て薬剤耐性を生じる(獲得耐性)ため、その耐性機構の解明と耐性診断法の開発は臨床において薬剤耐性症例に対する新たな重要な課題である。 我々はこれまでに、EGFR遺伝子変異を有する肺がん細胞(EGFR変異陽性肺がん)のEGFR阻害薬オシメルチニブ治療によりAXLシグナルを介した治療抵抗性が誘導されることを報告した。本研究はEGFR変異陽性肺がんのオシメルチニブ治療におけるAXLシグナル活性化の臨床的意義について検討した。AXL高発現を伴うEGFR変異陽性肺がんに対して、オシメルチニブとAXL阻害薬の初期併用の有効性をマウスモデルにて検証し、有意な抗腫瘍効果を確認した。一方、オシメルチニブ獲得耐性時からの併用効果は限定的であり、治療介入に伴う腫瘍内不均一性の進行が原因と考えられた。92例のEGFR変異陽性肺がん患者の腫瘍検体を用いた検討では、AXL高発現群は58%を占め、AXL低発現群に比較し、オシメルチニブの奏効率が低い傾向を認めた。以上より、EGFR変異陽性肺がんの腫瘍内AXL発現の多寡はバイオマーカーとして有用であり、AXL阻害薬との初期併用は新規治療法として有望である結果を得た。京都府立医科大学大学院 呼吸器内科学教室*1 YAMADA TADAAKI *2 OKURA NAOKO 同 上*3 YOSHIMURA AKIHIRO 同 上*4 TAKAYAMA KOICHI 同 上 これまでに本邦の肺腺がん患者の約半数にはEGFR活性型遺伝子変異が存在すること、その治療薬であるEGFR阻害薬における多様な耐性機構が明らかになり、薬剤耐性後腫瘍の増大・進行に伴いがんの不均一性(heterogeneity) が助長されることが報告されている。最近、がん治療薬に対して初期抵抗性を示す、いわゆる「薬剤抵抗性細胞」の存在が注目されている。これらの抵抗性細胞は薬剤曝露による細胞死誘導を回避するための逃避機構を有することで薬剤感受性低下効果を示す。その結果、薬剤長期曝露による獲得耐性機構を獲得することがEGFR阻害薬の耐性に関する基礎研究で報告された1)。しかしながらEGFR変異陽性肺がん治療開始時に導出される薬剤抵抗性細胞に起因した機構はほとんど明らかにされていない(図1)。Key words:非小細胞肺がん、薬剤抵抗性、AXL、EGFR阻害薬、バイオマーカーEGFR mutated non-small cell lung cancer93肺がん薬剤抵抗性に関わる新規コンパニオン診断法の開発Development of novel companion diagnostics for drug tolerance in patients with
元のページ ../index.html#107