謝 辞変異陽性肺がん)に対し、がん分子標的薬EGFR阻害薬は奏効を示す。しかしながら、一部の症例では「初期治療抵抗」を示し、早期に薬剤耐性を生じることが次の臨床的な課題のひとつである7)。すなわち、治療前および治療導入時の「治療抵抗性」の早期診断とその対策は、さらなる肺がん治療の発展において極めて重要である。 現在、「がん分子標的薬の耐性研究」は精力的に進められている。その中で、基礎研究から導出されたEGFR阻害薬の代表的な耐性機構であるT790M二次的耐性変異は、臨床における獲得耐性症例の約半数で出現し、オシメルチニブが耐性克服薬としての有効性が報告されている。その他、バイパスシグナルの活性化をはじめとする様々な薬剤耐性機構が報告されているが、そのほとんどは「獲得耐性」に関する研究成果である8)。その一方で、既知の獲得耐性機構に基づく新規治療法による耐性克服は、臨床試験で十分な成績は示されておらず、治療介入によるheterogeneityの助長がその要因のひとつと考えられる。ゆえに、がん治療における初期治療介入の重要性が認識されつつある。 近年、治療薬に対して抵抗性を示す、いわゆる「治療抵抗性細胞:Drug tolerant cell」の存在が注目されている。これらの抵抗性細胞は薬剤曝露による細胞死誘導を回避するための何らかの逃避機構を有することで薬剤感受性の低下作用を示し、ひいては獲得耐性機構へ移行することが報告され、その新規診断・治療法の確立は必須の課題である。現在、EGFR変異陽性肺がんにおけるEGFR阻害薬の耐性症例を対象としたAXL阻害薬とオシメルチニブの併用治療は、海外で治験が進行中である。しかしながら、コンパニオン診断法による登録症例の選別は行われておらず、有益なバイオマーカーの開発が望まれている。 このような研究背景の中、本研究を通じて複数の新たな知見が得られた。AXL高発現EGFR肺がん細胞におけるAXL阻害はオシメルチニブのDT細胞の生存を抑制することが示された。すなわち、EGFR阻害薬に対するDT細胞の一部は、EGFR阻害薬の曝露環境下ではAXLシグナルの活性化による生存シグナルの維持に依存状態になっていることを明らかにした。異種移植マウスモデルを用いた治療実験では、AXL阻害薬とオシメルチニブの初期併用治療は抗腫瘍効果を有意に増強した。一方、獲得耐性後の併用治療の効果は限定的であった。この結果は獲得耐性後の腫瘍は、治療介入に伴い腫瘍内heterogeneityの進行をきたし、標的併用治療の効果が減弱する可能性を支持するものである。すなわち、AXL高発現を伴うEGFR変異陽性肺がん腫瘍に対する至適治療法として、初回治療導入時の併用治療が望ましいことを明らかにした。さらに基礎研究で得られたこれらの新しい知見について、臨床的意義を検証するため、EGFR変異陽性肺がんの臨床検体を用いた前向き観察臨床研究を行った。その結果、EGFR変異陽性肺がんの腫瘍内AXL発現量がオシメルチニブ治療の奏効性を予測するバイオマーカーとして有用であることが示唆された9)。 以上の研究成果は、EGFR変異陽性肺がんのオシメルチニブ治療における新規バイオマーカー、新規治療法開発の基盤となり得ることが期待され、さらなる研究の発展が望まれる。 本研究を行うにあたり研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深謝申し上げます。また、本研究にご協力いただきました患者様ならびにそのご家族様、共同研究施設の関係者の皆様に御礼申し上げます。99
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