臨床薬理の進歩 No.42
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考  察flow cytometryで用いることのできる特異的な抗LCN-2抗体は市販抗体のなかには存在しなかった。4. 末梢血好中球数、桿状核級数、分葉核球数など血算値から臨床マーカーとなりうる指標はあるか? SJS/TEN患者では好中球減少がしばしば認められる。また、我々はSJS/TEN患者末梢血から回収した好中球は強くNETsを形成していることを確認している。NETsは1つの細胞死であり、NETsの形成が好中球数の減少に寄与していると考えた。SJS/TEN以外の薬疹型では末梢血好中球は増加することが多いため、SJS/TEN発症初期の好中球減少は1つのバイオマーカーとなる可能性がある。 SJS/TEN患者のSJS/TEN発症前、あるいはSJS/TEN治癒後の末梢血好中球数の平均を算出し、その個人における好中球数のベースラインとした(図5)。それに対するSJS/TEN発症直前、発症後の好中球数の比を算出した。ほとんどのSJS/TEN患者は発症後に好中球数が減少することが確認された(図6)。また、SJS/TENの治療図6 SJS/TEN発症患者末梢血好中球数の発症前後末梢血好中球数との比較SJS/TEN発症時の末梢血好中球数とベースライン末梢血好中球数の比を治療前後で検討した。図中のバーは各測定日全患者の平均である。のfirst lineは大量のステロイド投与にも拘わらず、約半数の患者はステロイド使用後も好中球数はベースラインを下回っていた(図6)。 血清LCN-2、LL-37濃度はSJS/TENで上昇しており、他の薬疹型、類縁疾患では上昇していなかった。これはLCN-2、LL-37といった分子がSJS/TENで特異的に機能していることを示唆する。本研究の最終目標は、医師であれば誰でもどこでも簡易的にかつ迅速にSJS/TENのスクリーニングを可能にする迅速診断キットを作成することにある。その目的のためには偽陰性が生じることが最も容認されない。この観点からSJS/TEN患者における血清LCN-2、LL-37濃度の分布を観察すると、一部の患者では他の薬疹型、類縁疾患と同等血清濃度の低値群が存在する。このことから血清LCN-2、LL-37をターゲットとした迅速診断キットの開発は望ましくないと判断した。 次に、尿中LCN-2濃度の測定を行った。SJS/106

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