臨床薬理の進歩 No.42
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対象と方法こともある。DPZの代謝は主にCYP2D6で行われるが、DLB患者におけるDPZの治療効果および有害事象と薬物血中濃度との関連性は調査されていない。そこで本研究では、遺伝子型に基づく投与設計を試みるため、DLBおよびAD患者の血液を用いて薬物代謝酵素の遺伝子型解析および血漿中DPZ濃度の測定を行った。 α-シヌクレイン(α-Syn)は、DLBとパーキンソン病(PD)で増加する異常タンパク質である。神経細胞内に過剰なα-Synが蓄積すると細胞死が誘導され、PDが発症、進展するとされている1)。α-Synは主に脳内に生成され、脳脊髄液や血液中にも存在する5)。近年、PD患者における血液中α-Syn濃度の増加が報告され、早期発見やADとの鑑別診断に役立つバイオマーカーとしての有用性が期待されている6)。しかし、DLB患者の血中α-Syn濃度については報告がない。その一方でDLBにおいては、脳脊髄液中のα-Syn濃度が減少しているという報告もあり7)、バイオマーカーとしての有用性については一定の見解には至っていない。最近では、PD患者において血漿エクソソーム中α-Syn濃度が健康成人と比較して増加し、かつ重症度に比例して増加しているという報告があり8〜10)、病態形成のメカニズムに共通点を有するDLB患者においても、血漿エクソソーム中のα-Syn濃度が増加していることが推察される。そこで本研究においては、血漿エクソソーム中α-Syn濃度とDLBの病態との関連性、バイオマーカーとしての有用性を検討するために、DLBおよびAD患者の血漿エクソソーム中α-Syn濃度を測定した。人権の保護と法令等の遵守 本研究のヒトを対象とした臨床研究は、北海道科学大学薬学部(当時;北海道薬科大学)の研究倫理委員会において審査を受け、北海道科学大学(当時;北海道薬科大学)学長により、承認を受け実施した(承認番号16-02-010)。本研究のヒトを対象とした全ての試験は、ヘルシンキ宣言の精神を遵守し、厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い実施した。本研究の実施計画、研究の意義、考えられる有害反応および試験への参加中止の自由などについて、口頭および文書で説明した後、自由意思に基づく参加への同意を文書で得た。ただし、DLBおよびAD患者は本人を良く知る家族の代諾を必須とし、本人が明らかな拒否を示さない場合は参加可能とした。対象患者 対象者は、患者群として医療法人社団旭川圭泉会病院に通院または入院中の患者34名とした。DLBの診断は、「DLBの臨床診断基準改定版」11)に従った。ADの診断は、DSM-ⅣまたはDSM-5(米国精神医学会)に従った。非認知症高齢者群(対照群)は、患者群と年齢がマッチングした、DSM-5の認知症および軽度認知障害の基準を満たさず、健康診断等で疾病を指摘されていない、薬・サプリメント・健康食品を摂取していない、患者群と血縁関係のない者20名とした。血液試料の調製 EDTA-2K採血管で2 mL、ヘパリン採血管で10 mL採血した。EDTA-2K採血管はそのまま、ヘパリン採血管で採取した血液は直ちに遠心分離(1200 rpm、10 min、 4 ℃)し、血漿を分注後測定までマイナス80 ℃以下で凍結保存した。血漿中DPZ濃度の測定 血漿中DPZ濃度は、液体クロマトグラフィー質量分析法(HPLC-MS/MS)を用いて測定した。カラムはSunShell(5 cm×2.1 mm、粒子径2.6 µm、ChromaNik Technologies Inc.)を用い、カラム温度を50 ℃とした。移動相として5 mMギ酸アンモニウム−ギ酸緩衝液(pH 5.0)とアセトニトリル溶液を用い、流速は200 µL/minとした。検出方法はマルチプルリアクションモニタリングとし、ポジティブイオンモードで検出した。血漿に内標準物質としてDPZ110

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