臨床薬理の進歩 No.42
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研究1 血漿中CP-IとCMPFの同時定量法の確立血漿サンプルの前処理法と測定条件 250 μLの血漿をサンプルとし、前処理にはOasis® MAX µElution Plate(Waters、USA)を用いた固相抽出法を採用した。測定は超高速液体クロマトグラフ−タンデム質量分析(UHPLC-MS/MS)法で行った。UHPLC-MS/MSはNexera X2 LC systemおよびLCMS-8040(島津製作所、京都)を使用し、electrospray ionization(ESI)法で測定した。CP-IおよびCMPFの内部標準物質として、それぞれ15N4-CP-IおよびCMPF-D5を使用した。CP-Iはポジティブイオンモードで[M+H]+シグナルを、CMPFはネガティブイオンモードで[M=H]−シグナルをmultiple reaction monitoring(MRM)モードで測定した。モニタリングする質量電荷比(m/z)は、CP-I、15N4-CP-I、CMPFおよびCMPF-D5でそれぞれm/z 655.4→m/z 596.3、m/z 659.3→m/z 600.3、m/z 239.0→m/z 195.2およびm/z 244.2→m/z 200.2とした。生体試料中薬物濃度分析に関するUS Food and Drug Administration(FDA)ガイダンスに準じてフルバリデーションを行い、本定量法の妥当性を評価した。臨床適応性 本定量法の臨床応用性を評価するために、10名の健康成人、14名のstage 3-5の慢性腎不全患者および14名のstage 5Dの慢性腎不全患者における血漿中CP-IおよびCMPF濃度を測定した。なお、本研究は明治薬科大学の研究倫理委員会(承認番号:201911)および大分大学医学部の倫理委員会(承認番号:1663)の承認を得て実施した。統計解析 グループ間の血漿中CP-IおよびCMPF濃度の比較は、一元配置分散分析およびDunnettの事後検定で行った。血漿中CP-IとCMPF濃度の相関は、対象と方法が報告されており2)、ゲノムワイド関連解析により、シンバスタチンの有害反応である筋障害のリスクが上昇することも明らかにされている3)。環境的要因としては併用薬の影響が大きく、OATPを阻害するリファンピシンやシクロスポリンAは、OATP1Bの基質薬の血中濃度を顕著に上昇させることが報告されている。一方で、生理的要因については尿毒症物質である3-carboxy-4-methyl-5-propyl-2-furanpropanoic acid(CMPF)4)や、炎症性サイトカインであるinterleukin-6(IL-6)やtumor necrosis factor-α(TNF-α)5)がOATP1B活性を低下させることがin vitroで報告されているものの、これらのin vivoでの影響は明らかにされていない。そのため、実地臨床ではOATP1B基質薬は固定用量で投与されており、このことが薬効や有害反応発現の個人差に起因していると考えられる。 In vivoでのOATP1B活性を評価する方法として、基質薬であるHMG-CoA還元酵素阻害薬をプローブとして使用する方法が主流であったが、近年の研究成果により内因性物質を指標としたフェノタイピング法が提唱されている。中でも、血漿中のcoproporphyrin-I(CP-I)は精度の高い内因性物質として着目されており、薬物間相互作用試験などで活用され始めている6)。ヒト血漿中のCP-I濃度は非常に低く、OATP1B活性のフェノタイピングにおけるCP-Iの有用性が明らかになった背景として、近年の質量分析法の進歩が大きく貢献している。そのため、OATP1Bの内在性基質としてのCP-Iの歴史は浅く、不明な点も多い。特に、OATP1B1の遺伝的背景と血漿中CP-I濃度の関連はほとんど明らかにされていない。 そこで本研究では、まず質量分析法によるCP-IとCMPFの同時定量法を確立し、血漿中CP-I濃度とOATP1B1の遺伝的背景の関連を評価した。続いて、OATP1B活性の個人差に関連する生理的要因として尿毒症物質と炎症性サイトカインに焦点を当て、これらの血漿中濃度とCP-I濃度の関連を評価し、患者個々のOATP1B活性の予測に繋がるエビデンスを構築することを目的とした。118

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