臨床薬理の進歩 No.42
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rho123およびPTXの膜透過性に対するcMUC1欠損の影響を評価したところ、MDCKⅡcABCB1-KO細胞における膜透過性と比較して吸収方向および排出方向の両方向での増加が認められ、Papp値は約1.3〜2.5倍に上昇した(図1c)。以上の結果より、本検討で用いたP-gpの基質薬物であるrho123およびPTXの膜透過性は、内因性のP-gp介在性輸送を除外した条件においてもcMUC1欠損の影響を受けることが明らかとなった。したがって、griseofulvinに加えて、rho123およびPTXの細胞膜透過機構において、MUC1分子が重要な役割を有することが示唆された。Rho123およびPTXの脂溶性(Log P値)はそれぞれ1.13および3.54と高く、細胞膜透過過程におけるMUC1の影響は、脂溶性の大小が一つの要因となる可能性が示された。小括 本研究で得られた結果より、MDCKⅡ細胞における内因性MUC1が、脂溶性薬物の経細胞輸送を制御するバリア機能に関与することが明らかになった。また、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を用いることで、遺伝子クローニングの難易度が極めて高いmucin分子の薬物動態的特性が評価可能となり、本細胞系が薬物吸収性評価の新たな検討方法を提示するものであると考えられた。実験2. 脂溶性薬物の細胞膜透過性における膜結合型mucinの影響とその分子種間差 前述のように、膜結合型mucinは高度に糖鎖修飾された巨大な細胞外ドメインを有し、腸管上皮細胞の管腔側細胞膜(頂端膜)に局在している。そのため、薬物の細胞膜透過に対して非常に重要な役割を担う可能性が予想されるが、未だ詳細な検討はなされていない。薬物の細胞膜透過と膜結合型mucinとの関係性については、さらに詳細な検討を行う必要がある。 一方、近年、膜結合型mucinが癌細胞の増殖促進や転移に寄与することが明らかとなり、癌患者の予後不良に関連することが指摘されている12)。加えて、癌細胞に高度に発現する膜結合型mucinは化学療法の有効性を制限する薬剤耐性に関与することが報告されている13)。これらの報告から、膜結合型mucinが抗癌剤の細胞膜透過性の制御に関与しているとの仮説を立てた。癌細胞が薬剤耐性を獲得する機構については、薬物排出の増加、薬物の不活性化やアポトーシス回避など多岐にわたるが、mucinによる耐性機構は不明である。したがって、本仮説を立証することができれば、薬剤学領域だけでなく、癌領域における化学療法の最適化にも寄与する可能性が見込まれる。 そこで本研究では、典型的な膜結合型mucinであるMUC1およびMUC13を導入した培養細胞を構築し、抗癌剤をモデル薬物として用いて、細胞膜透過に対するmucinの影響を評価した。実験方法 ヒト乳腺癌由来細胞株(MCF-7細胞)を用いて、GFP標識化ヒトMUC1(GenBank Accession Number; CAA56734)およびヒトMUC13(GenBank Accession Number; NM_033049)安定発現系細胞を作製した。また、MUC1は細胞質側末端(cytoplasmic tail: CT)にシグナル伝達に関与するドメインを有しているため、本領域を除去した変異体としてMUC1ΔCTをデザインし、GFP標識化ヒトMUC1ΔCT安定発現細胞株を作製した。MCF-7細胞中のmucinタンパク質発現はWestern blot法により確認し、細胞内局在は蛍光顕微鏡下で観察した。モデル薬物として抗癌剤である5-fluorouracil(5-FU)、cisplatin(CDDP)、doxorubicin(DOX)およびpaclitaxel (PTX)を選択し、脂溶性薬物の細胞膜透過性に対するmucinの影響を評価するため、細胞毒性効果(MTT assayにより細胞生存率を評価)と抗癌剤の細胞内取り込みを評価した。別途、高脂溶性のモデル薬物としてrose bengalおよびhoechst 33342を用いて、細胞膜透過に対するmucinの影響を評価した。また、非透過性高分子薬物としてFITC-dextran 4000(FD-4)を用い、155155

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