臨床薬理の進歩 No.42
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方  法学会ではアジア人はBMI23以上で糖尿病のリスクとして糖負荷試験等スクリーニングを行うことを推奨しており、この結果は合致するものであった。アジア人はインスリン分泌が低いのみならず、軽度の肥満でもインスリン抵抗性が生じやすいと考えられている。このアジア人の非肥満、低インスリン分泌、インスリン抵抗性の特殊な病態は「Asian Diabetes」というフィールドとして扱われている。 しかし、前述のようにインスリン抵抗性、体組成、インスリン分泌に関する因子が不明な背景から、我々はヒトにおいてインスリン抵抗性、体組成、インスリン分泌に関連すると報告されている因子について検討を行った。グルコースクランプ法は主に筋肉のインスリン抵抗性を評価する試験であるため、筋肉のインスリン抵抗性に関与するとされる、アディポネクチン、IL-6、IL-15、脂肪酸結合蛋白Fatty acid binding protein-4(FABP4)、オートタキシン、アイリシン、糖終末化産物AGEなどについて、インスリン抵抗性に最も強く関与する因子を検討したいと考えた。これまでに我々は、2型糖尿病患者においてグルコースクランプ法を用いてインスリン抵抗性を、食事負荷試験を用いてインスリン分泌能を評価し、これらの因子の関連を検証した結果、インスリン分泌低下と、血清AGEであるCML高値がインスリン分泌低下と強く相関することを報告している4)。また、インスリン抵抗性に影響する因子としてFABP4高値が最も強い関連物質として報告している5)。 FABPは脂質シャペロンファミリーの一つであり、FABP4は脂肪細胞とマクロファージに発現する。FABP4は炎症および細胞内脂質代謝に関わり、FABP4欠損マウスではインスリン抵抗性の改善および動脈硬化の抑制が報告されている6)。また、FABP4産生阻害薬をマウスに経口投与することにより糖尿病マウスでの耐糖能の改善を認めたことが報告されている7)。上記のようにFABP4は動物実験では生体内で脂肪細胞およびマクロファージから産生され、脂肪細胞に影響与えることが研究されているが、ヒトにおいてどのように糖代謝に関与しているか、また筋細胞に直接どのような作用があるかは不明の部分が多い。 今回、我々は臨床研究を進めると共に、マウス骨格筋細胞C2C12を用いて、FABP4の作用を検証したいと考えた。本研究ではFABP4のヒトにおけるインスリン抵抗性に与える臨床的意義を検討するとともに、FABP4の筋細胞への糖代謝に関する直接作用について、マウス細胞株を用いて検証を行った。本研究にてFABP4がヒト、マウス筋細胞においてインスリン抵抗性に強く関与することが証明できれば、新たな糖代謝のマーカー、また治療標的となると考えられる。臨床研究 食事負荷試験 インスリン分泌の評価として、キューピージャネフ450(460 kcal、炭水化物50%、タンパク質15%、脂質35%、塩分1.6 g)を用いて、食前、食後15分、30分、60分、120分の血糖、インスリン、Cペプチドを測定した。食前、食後120分のFABP4をELISA法(human Adipocity FABP ELISA kit、RD191036200R、BioVendor R & D、Bruno、Czech Republic)にて測定した。食前後のFABP4の統計処理にはt検定を用いた。 グルコースクランプ法 人工膵臓日機装STG-55を用いて、正常血糖高インスリンクランプ法を行い、インスリン抵抗性指数GIR(Glucose Infusion Rate)を求めた。このGIRは主に筋肉のインスリン抵抗性を評価する値である。本研究では、肝臓からの糖新生が完全に抑制される、末梢血インスリン濃度が200 μU/mLになるプロトコールを用いている8)。 倫理的配慮 医学研究等の対象となる者の人権の擁護について170

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