*1 NAKATAKE RICHI 中竹 利知*1はじめに要 旨 肝細胞癌の新たな治療法の開発として、腫瘍選択的に複製する第三世代制限増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型:T-01を基礎骨格として外来遺伝子を組込み、IL-12や可溶型B7-1を発現する「武装化」HSV-1(T-mfIL12およびT-B7-1)を用いた検討を行った。マウス肝癌腫瘍モデルにおける抗腫瘍免疫に焦点を置き、ウイルスの効果を評価した。T-mfIL12およびT-B7-1は、基礎となるT-01の能力に加えて、抗腫瘍免疫を介して格段に増強した抗腫瘍効果を示した。「武装化」HSV-1は、肝細胞癌に対し有効な新規治療法になりうることが示唆された。抗腫瘍免疫における重要性が認識されてきたサイトカイン発現の遺伝子を用いた新たな増殖型治療ベクターの開発は、抗腫瘍効果の向上の面において意義が大きい。肝細胞癌を根治可能にする、革新的かつ実用的な新規治療の開発研究を推進する。 関西医科大学 医学部 外科学講座はゲノムに遺伝子操作を加えられ、腫瘍内での複製能を保ちつつ、正常組織での病原性が最小限に押さえられている。腫瘍細胞に感染したウイルスは細胞内で複製し、その過程で感染細胞は死滅する。増殖したウイルスは周囲の腫瘍細胞に感染し、複製→細胞死→感染を繰返して抗腫瘍効果を現す。また正常細胞に感染したウイルスは複製できず、細胞に障害が生じない。単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のゲノムを遺伝子工学的に改変し、腫瘍細胞で選択的に複製するがん治療用遺伝子組換えHSV-1:G47Δが開発された。G47Δは、(1)γ34.5遺伝子の欠失、(2)lacZ 遺伝子挿入によるICP6遺伝子の不活性化、(3)α47遺伝子欠失変異の三重変異を有する(図1)2)。G47Δはウイルス増殖能と抗腫瘍効果が向上した、がん治療に適した遺伝子組換えウイルスである。腫瘍内におけるG47Δの増殖が、腫瘍細胞に特異的な抗腫瘍免疫を誘導Key words:肝細胞癌、第三世代制限増殖型遺伝子組換えHSV-1、G47Δ、抗腫瘍免疫、ウイルス療法A therapeutic strategy for human hepatocellular carcinoma 本邦では、1年間に10万人あたり約30人が新たに肝臓癌の診断を受ける1)。肝細胞癌が発見された時点で背景肝の肝硬変が悪化進行し、手術不可能な状態であることも少なくはない。進行肝細胞癌では薬物治療が主に行われるが、無効例や肝機能障害などの有害反応のために中断例が多く、予後が悪いために新規治療法が待望されている。 近年、新しいがん治療法であるウイルス療法の研究が、国内外で精力的に進められている。現在までにHSV-1・アデノ・ワクシニアなどの様々ながん治療用ウイルスが開発され、世界各国で臨床試験が行われている。ウイルス療法は、増殖型ウイルスを腫瘍細胞に感染させ、ウイルス増殖に伴うウイルス自身の直接的な殺細胞効果により治癒を図る治療法である。がん治療用増殖型ウイルスusing "armed" oncolytic herpes simplex viruses11抗腫瘍免疫賦活機能を“武装化”した癌特異的複製型HSV-1による肝細胞癌への治療戦略
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