臨床薬理の進歩 No.42
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この実験系を用いて臨床検体でのtissue micro arrayを使用したFISH解析をおこなった。表1に示すように、75例の前立腺がん検体のうち11%において、KDM5D locusの欠失を認めており、そのうちのほとんどがGleason’s grade 5の高異型度のがんであった。このことから、前立腺がんにおいて悪性度の高い腫瘍サブタイプの1つとしてKDM5Dの欠失を特徴とする腫瘍サブタイプが存在していることが考えられた。 KDM5D欠失による腫瘍の形質変化の分子生物学的な特徴を明らかにするために、LNCaP-shRNAによるノックダウンと、LNCaP-104R2-KDM5D overexpressionによる双方向からの解析をおこなった(図1a)。KDM5Dノックダウンにより腫瘍細胞の足場非依存性増殖がみられることが確認された(図1b)。KDM5D locusの3’UTRにshRNAを設計し、そこにKDM5D re-introductionで形質を確認したところ、やはりshKDM5Dでは足場非依存性増殖を、そのre-introduction実験系ではそのphenotypeの消失を認めた(図1c)。これらの細胞株実験系を用いてorthotopic xenograftによる去勢環境下での細胞増殖を確認したところ、KDM5Dノックダウンの系においては去勢抵抗性の腫瘍形成が認められた。 KDM5DはH3K4me3、me2の特異的ヒストン脱メチル化酵素であることが知られている。H3K4me3のグローバルレベルでの発現量はKDM5Dノックダウンによっては変化がなかった。このことより、KDM5Dによるヒストンメチル化の調節機構は特定の領域にてみられていることが示唆された。LNCaP細胞株のKDM5D ChiPseq解析をおこなった。ゲノム上のKDM5Dがエンリッチされている領域は、プロモーター領域が主であった(図2a)。KDM5D結合領域とactive transcriptional markであるH3K4me3領域はかなりオーバーラップしており、KDM5Dのノックダウンにより、KDM5D結合領域のH3K4me3シグナルの増強がみられていた(図2b)。モチーフ解析では、KDM5D結合領域に共通してエンリッチされる転写因子群としてE2Fファミリー、MYBL2などの細胞周期調節に関わる転写因子群がリストアップされることから、KDM5DがH3K4me3パターンを調整することにより、これらの細胞周期調節因子の作用をコントロールしていることが示唆された(図2c)。 前述のLNCaP-shKDM5DとLNCaP-104R2-KDM5D overexpressionの実験系を用いて、RNAseqによるトランスクリプトーム解析をおこなった。KDM5ファミリーはA〜Dの4つのパラログが存在しており配列相同性も高いことが知られているため、まずKDM5Dの発現レベル変化によってほかのKDM5ファミリーの発現レベルが変化するかを確認したが、有意な変化はみられなかった(図3a)。KDM5Dのノックダウン、ノックインにより発現レベルの変化する遺伝子群をFalse Discovery Rate(FDR) < 0.01でリストアップして、網羅的に解析をおこなった。143遺伝子がLNCaP-shKDM5Dで上昇、さらにLNCaP-104R2-KDM5D overexpressionで低下していた。逆方向に変化する遺伝子数は28遺伝子であった。143遺伝子群でのgene ontology解析において、103のGO termsがFDR < 0.04でリストアップされ、その大部分が細胞周期調節に関わるパスウェイであり、ChIPseqによるモチーフ解析の結果を反映するものであった。次に、KDM5D欠失が総トランスクリプトームにおいてどのように形質変化を起こしているかについての解析をgeneset enrichment analysisによっておこなった。FDR 0.25以下を閾値として、LNCaP細胞でのKDM5Dのノックダウンにより、64のpositiveにエンリッチされるパスウェイと、6のnegativeにエンリッチされるパスウェイが同定された。同様にLNCaP-104R2-KDM5D overexpressionでは、101のnegativeにエンリッチされるパスウェイが同定され、positiveにエンリッチされるパスウェイは同定されなかった。KDM5Dノックダウンによりup regulateされるパスウェイと、KDM5D overexpressionによりdown regulateされるパスウェイにおいて、最も有意な2つは全く同じであり、それはDNA replication and mitotic-related pathways36

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