臨床薬理の進歩 No.42
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*1 SAKATA-YANAGIMOTO MAMIKO 筑波大学医学医療系血液内科*2 CHIBA SHIGERU はじめに要   旨 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)では、70%の症例でsmall GTPaseをコードするRHOA遺伝子のホットスポット(p.Gly17Val)変異とエピゲノム調節に関わるTET2の機能喪失型変異の共在を認める。これまでの研究成果において、ゲノム異常によるRHOA-VAV1シグナル活性化が腫瘍発症に重要と考えられたことから、本研究ではこれを標的とするin vivoの治療モデルを構築し、臨床に還元する研究へとつなげることを目的として行った。 AITLのゲノム異常を再現するモデルマウスを作製した。このマウスでは、RHOA-VAV1経路の活性化によるT細胞受容体(TCR)シグナルの過剰活性化がみられた。マルチキナーゼ阻害剤であるダサチニブは、TCRシグナル伝達の阻害を介して、生存を延長した。そこで、再発/難治性AITL患者を対象としたダサチニブ単剤療法の第I相臨床試験を実施、5例を登録した。Grade3の有害事象を1例に認めた。4例で部分奏効が得られた。本研究の結果を受けてダサチニブの適応拡大を目指した医師主導治験を行っている。    同   上疾患を合併しやすいという特徴がある1)。AITLの腫瘍細胞はT濾胞ヘルパー(T follicular helper: TFH)細胞の特徴を示し、CD4、PD-1、ICOS、CXCL13、CXCR5、BCL6の少なくとも一部を発現する。さらには、腫瘍組織には腫瘍細胞だけでなく、高内皮細静脈、濾胞樹状細胞の増生、好酸球やB細胞などの多様な免疫細胞の浸潤がみられる。こうした臨床症状および腫瘍組織像のため、リウマチ性疾患や炎症性疾患などの良性疾患(がんではない疾患)との区別が難しく、しばしば診断に大変苦慮する。 そこで、我々は、AITLの診断技術の向上と分子病態に基づく有効な治療の開発を目指して、一連の研究を行ってきた。AITLのゲノム解析により、Key words:血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、RHOA変異、VAV変異、ダサチニブ、臨床試験Therapeutic approach targeting aberrant activation of RHOA-VAV1 signaling in angioimmunoblastic T-cell lymphoma 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma: AITL)は5年生存率が約30%と極めて難治性のT細胞リンパ腫である。末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma: PTCL)の約20%を占めることから、世界的にはPTCLのなかで2番目に多いPTCLサブタイプである。本邦における年間発症は約400例であり、多くの固形がんに比較して、きわめて稀少である。そこで、有効な治療方法の開発が進みにくく、アカデミア発の治療開発が重要である。 AITLでは、リンパ腫でよくみられるリンパ節腫大に加えて、発熱、皮疹、関節炎などの自己免疫坂田(柳元)麻実子*1 千葉 滋*245RHOA-VAV1シグナルの異常活性化を標的とする治療開発血管免疫芽球性T細胞リンパ腫における

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