対象と方法AITLサンプルの約70%にRHOA遺伝子変異が同定された2)。RHOA変異はG17Vホットスポットに集積する(以後はG17VRHOA変異と称する)。加えて、エピゲノム調節の一つであるDNAメチル化シトシンをヒドロキシメチル化シトシンへ変換する酵素をコードするTen-Eleven Translocation-2(TET2)の機能喪失型変異の共在がみられる2)。特に、G17VRHOA変異はAITLに特異的なことから、腫瘍サンプル3,4)および血清5)を用いた遺伝子変異の検出方法を確立し、企業との共同研究により遺伝子診断実用化を実現した。 さらに、ゲノム異常に基づく分子病態を明らかにするための研究を行ってきた。RHOAはGTP結合活性型またはGDP結合不活化型を交互にとる。これは、RHOAを活性化するグアニン交換因子(guanine exchange factor: GEF)とRHOAを不活化するGTPase活性化蛋白質(GAP)の協調作用によって制御される。G17VRHOA変異体はGTPあるいはGDPと結合しないことから、RHOAシグナリングを伝達しない2)。一方で、RHOA遺伝子変異がほとんど常に特定のアミノ酸置換に集積するというパターンから、特別な機能を獲得していることが推察された。そこでG17VRHOA変異体を発現するJurkat細胞を用いて、G17VRHOA変異体に結合する蛋白のスクリーニングを行った6)。G17VRHOA変異体に特異的に結合する蛋白として、VAV1蛋白を見出した6)。VAV1蛋白はT細胞受容体(T cell receptor: TCR)シグナルの活性化において、GEF依存的および非依存的にシグナル伝達を担う。G17VRHOA変異体へVAV1が結合することにより、VAV1のリン酸化を増加させ、in vitroでTCRシグナル伝達を強化する6)。VAV1リン酸化酵素はSrcファミリーによって担われ、マルチキナーゼ阻害剤であるダサチニブにより阻害することが明らかとなった6)。 本研究では、これまでの研究成果を発展させ、AITLにおける治療モデルを樹立するとともに、AITLの新規治療方法の開拓を目的とし、臨床応用を目指した臨床開発を行うために実施した。マウスモデルの解析7) ヒトG17VRHOAトランスジーンをコードするcDNAを、ヒトCD2遺伝子の上流遺伝子調節領域と遺伝子座制御領域を含むVA CD2トランスジーンカセットに挿入した。このコンストラクトをC57BL/6受精卵に注入して、トランスジェニックマウス(G17VRHOAtg)を作製した。Tet2flox/floxマウスは、Bernard博士らにより樹立され、CreリコンビナーゼによりTet2遺伝子のエクソン10および11を欠損する8)。Mx-Creマウスは、CLEA Japan, Inc.から購入した。Mx-CreマウスをTet2flox/floxおよびG17VRHOAtgと交配し、Mx-Cre×Tet2flox/flox ×G17VRHOAtgを得た。ポリイノシン:ポリシチジル(pIpC)を、3〜4週齢のすべてのマウスに、1日おきに20 mg/kgの用量で、合計4回、腹腔内注射し、Tet2-/-G17VRHOAtgマウスを作製した。同じ週齢の野生型あるいはTet2-/-G17VRHOAtgマウスを解析に用いた。 動物実験は筑波大学動物実験委員会で審査および承認された。フローサイトメトリーおよび免疫染色 脾臓とリンパ節の細胞懸濁液をACKバッファーで溶解し、赤血球を除去した。フローサイトメトリー分析をBD FACS Aria Ⅱ(BD Biosciences)で行い、得られたデータをFlowJoソフトウェア(MACS Miltenyi Biotec)で分析した。臓器の一部を10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。病理組織学的検査のために、切片をヘマトキシリンとエオジンで染色し、Keyence BZ-X710顕微鏡(Keyence Corporation)により撮影した。臓器の他の部分は4%パラホルムアルデヒドで4 ℃、5時間固定し、−80 ℃でOCTコンパウンド(Sakura Finetek Japan Co.)に保存した。OCTブロックを5 μmの切片にスライスし、PD1(1:50)、CD4(1:500)、phosphoVav1 Tyr-174(1:100)に対する一次抗体とともに90分間反応した。二次抗体を1:1000に46
元のページ ../index.html#60