図1 試験フローチャート対象と方法不安定な愛着行動を示し、また育児ストレスの高い養育者は子どもの怒りや不安に適切かつ敏感に対処することが困難である。現在までRADの中核症状を治療するための確立された薬物療法はなく、安全かつ有害反応のリスクが少ない薬理学的介入試験が必要とされている。 RADの神経基盤はまだ十分に解明されていないが、我々はRADの子どもを対象としたMRIを用いた脳構造研究において、一次視覚野の灰白質容積低下、脳梁・視床など感情処理関連領域の白質線維変容を報告した3~5)。さらに、機能的MRI(fMRI)研究では、我々は金銭報酬課題時に腹側線条体の活動が低下し、臨床症状の重症度と負の相関があることを明らかにした6)。したがって、特にRADの報酬系回路の脳機能障害を標的とする薬理学的介入は、報酬機能と臨床症状を改善する可能性があると示唆される。 一方、下垂体後葉ホルモンである「オキシトシン(以下、OT)」は、他者との愛着形成や信頼を高め、向社会的行動や報酬関連の動機づけ行動を改善する働きがあるとして昨今注目されている。先行研究では、健康成人に対してOT点鼻により信頼性が上昇した報告、心の理論や表情認知課題成績が上昇した報告、心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の表情認知課題・報酬課題における脳活動上昇や重症例に有効性の報告などがあり7)、自閉スペクトラム症の子どもを対象とした最近の研究では、OT点鼻投与は忍容性が高く、有害反応をほとんど認めないことが報告されている8)。虐待を受けた子ども(被虐待児)では非典型的なOT分泌パターンが報告され9)、オキシトシンの機能不全がRADの愛着行動障害の要因の可能性として示唆される。したがって、報酬系機能不全があるRADにおいて、OT点鼻は効果的な治療介入の候補となる可能性がある。 本研究では、RADおよび対照として被虐待歴のない定型発達児(typical development:TD)に対してオキシトシン単回点鼻投与のランダム化二重盲検比較試験を行い、fMRIを用いてオキシトシンによる脳内報酬系の脳賦活効果および動機づけ(報酬への意欲)の変化を評価することを目的とする。 本研究は、RADとTDを対象に金銭報酬課題によるfMRIを用いた、OT単回点鼻投与のランダム化二重盲検プラセボ(PLC)対照クロスオーバー比較試験である(図1)。福井大学医学系研究倫理55
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