考 察その他に有意な変化があった脳領域はこの閾値で示されなかったが、我々は報酬処理における腹側線条体(尾状核など)の脳賦活に焦点を当てOTの潜在的な効果を探索するために、被虐待経験およびRADの子どもの脳機能を調査した研究が非常に限られていることや第一種・第二種過誤のバランスを考慮して、より緩い閾値(p < 0.005、uncorrected、k > 20)を用いて追加解析した。その結果、RAD群では、OT点鼻投与時にプラセボ投与時と比較して腹側線条体の両側尾状核(図4a、Caudate)、および報酬系回路に関連する領域(前頭回、前島皮質、眼窩回、前帯状皮質)の賦活を確認した。一方、TD群では、OT点鼻投与時にプラセボ投与時と比較して各脳領域の有意な賦活上昇・低下はみられなかった。OT点鼻投与による脳賦活変化と臨床症状重症度との相関 臨床的にRAD群は内在化症状と関連しており、TD群では内在化問題が少ないことから(表1参照)、RAD群のみを対象としてOT点鼻投与による両側尾状核の脳賦活変化[(HMR>NMR)OT - (HMR>NMR)PLC]と内在化問題の重症度との関連を評価した。その結果、両者の間に有意な正の相関が示された(左尾状核r = 0.544、p = 0.006;右尾状核r = 0.674、p < 0.001:図4b)。 本研究は、児童青年期のRAD男児とTD男児を対象に、fMRI を用いてOT単回点鼻投与が金銭報酬処理課題時の脳機能活動に及ぼす効果を調べた国内外で初めての臨床研究である。 RADではOT 点鼻投与後にTDと同程度まで動機づけスコアが上昇した。これは、幼少期に重度のトラウマを経験した境界性パーソナリティ障害患者においてOT単回点鼻投与後に接近行動意欲スコアが増加したという先行研究の結果11)と一致している。このことは、社会的報酬フィードバックを伴う児童青年期の反応性愛着障害におけるオキシトシン点鼻投与の効果−ランダム化二重盲検比較試験−インセンティブ遅延課題を用いて、向社会性に乏しい参加者に選択的にOT点鼻投与後の課題成績が上昇した研究による知見12)を裏付けるものである。 全脳解析では、RADにおいて金銭報酬条件でOT点鼻投与が右中前頭回(ブロードマン10野)の活動に選択的に作用することが明らかになった。ブロードマン10野は金銭報酬と感情処理に関連して活性化され、この外側前頭極領域が目標指向行動のトップダウン認知制御に関与していることが示されている13)。ブロードマン10野と腹側線条体を含む大脳辺縁系と傍辺縁系のネットワークの密接な連携は、報酬によって引き起こされる変化への行動適応に不可欠であると考えられている14)。さらに本研究結果は、OT点鼻投与が右中前頭回の活動を増強することでトップダウン認知制御を強化するというfMRI先行研究結果15)と一致している。また、本研究結果でOT点鼻投与後の金銭報酬条件で右中心前回(BA 6)の活動低下が観察された。中心前回は指の運動に関与する主要な運動野であり、OT点鼻投与後のRAD群での動機づけスコアの増加という行動結果を考慮すると、OT点鼻投与下の金銭報酬課題時に、より高い報酬を得るために慎重にカードを選択する際、指の運動信号を抑制したという適応過程を反映している可能性が示唆される。 また、比較的緩めの閾値を用いた探索的脳画像解析では、OT点鼻投与が RADの腹側線条体内の脳活動を賦活することが示された。腹側線条体はドパミンと内因性オピオイドを介して、それぞれ接近動機(報酬への意欲)と報酬反応性(快感の経験)に関与している16)。本研究知見は、金銭報酬課題を実施したPTSD、自閉スペクトラム症、健康成人におけるOT単回点鼻効果を示した研究結果17,18)と一致しており、OTがドパミン作動性報酬系回路を活性化することを示唆している。さらに、非社会的報酬である金銭報酬を用いた本研究の腹側線条体への賦活効果は、社会的報酬を用いてOT点鼻投与し中脳辺縁系ドパミン作動性報酬系の増強効果が報告された先行研究の結果と一59
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