臨床薬理の進歩 No.42
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謝  辞利益相反致している12)。我々の知見は、OT単回点鼻投与が動機づけと行動に広範な影響を与え、社会的報酬を超えて非社会的報酬にまで及ぶという証拠を裏付けるものである7)。さらに、RADにおいて金銭報酬条件での線条体賦活に対するOT点鼻投与の効果が内在化問題の重症度と有意な相関が示されたことから、重度の内在化問題を示すRADにとって OT点鼻投与がより有益である可能性を示唆された。この結果は、OT点鼻投与による報酬機能の改善効果が個人内要因により調整され12)、重症度が高いPTSDの腹側線条体反応において選択的な改善を示した先行研究結果17)と一致している。 一方で、OT点鼻投与によって心理ストレスが誘発され19)、幼少期に逆境体験を経験した人の大脳辺縁系ネットワークおよび脳活動が悪化した報告があり20)、被虐待経験者へのOT点鼻投与は慎重な検討が必要であることを示唆している。今後適切な薬理学的介入を行うために、OT点鼻投与による神経心理反応と幼少期のトラウマや遺伝子多型との関連を調査する研究が求められる。 本研究の限界として、両群のサンプルサイズが小さいこと、OTの投与量による評価をしていないこと、対象者が男児のみで性差を考慮していないこと、虐待の種類をコントロールしていないことが挙げられ、今後の研究ではこれらに対処する必要がある。また、本研究においてOT・プラセボ単回点鼻投与による有害事象は軽度の眠気のみでバイタルサイン異常も認められなかったが、継続投与の安全性を確かめる必要がある。 最後に、RAD群ではTD群に比べて、プラセボと比較してOT単回点鼻投与下では動機づけおよび脳内報酬賦活が増強され、RADの内在化問題が重度なほどより効果があることが示唆された。これらの結果は、OT点鼻投与が報酬への期待度を高め、報酬を得るための目標指向行動を促進し、行動・情動障害への改善効果の可能性があることを示唆しており、安全性の観点を含めRADに対する薬理学的治療の可能性と有効性を検討する上で重要な知見を示した。今後の臨床試験では、他の認知機能を含めた多角的・客観的な評価によって、OT点鼻投与効果が表れやすい臨床群のさらなる探求が必要である。また、更にサンプル数を増して長期的なOT点鼻投与が RADに有益かどうかを検証する必要がある。 本研究の遂行にあたり、研究助成を賜りました臨床薬理研究振興財団に深く感謝申し上げます。 本研究に関し開示すべき利益相反はありません。60

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