siRNAを用いたノックダウン実験により、OIPNに対するスタチン系薬剤の抑制効果はGstm1発現の増加を介していることが示唆された。さらに、担がんモデルマウスを用いた検討により、スタチン系薬剤はオキサリプラチンと併用しても抗腫瘍効果を減弱させないことが確認された。臨床患者データの後方視的カルテ調査から、スタチン系薬剤はOIPNを抑制する効果があることが示唆された。したがって、スタチン系薬剤はオキサリプラチンの治療効果を阻害することなく、有害反応として発症する末梢神経障害を抑制する可能性がある。 近年、がん医療の進歩は目覚ましく、治療が奏効したがんサバイバーはアメリカにおいて1300万人以上いるとも報告されており、15年以上生存するがんサバイバーも200万人以上含まれている。一方、治療に用いる抗がん剤の有害反応は、がんサバイバーのQOL低下や入院期間・医療費増加に関連し、大きな経済的損失を招いている。しかしながら、薬剤性有害反応は発現頻度が一定でなく、患者数の想定も難しいため、疾患を対象とした創薬に比べて製薬企業がターゲットとしにくい領域である。そのため、薬剤性有害反応に対する創薬は進んでいるとは言い難いのが現状である。 本研究で用いたドラッグリポジショニング手法は安価かつ迅速な新規治療薬の開発が可能であり、図7 スタチン系薬剤併用による末梢神経障害発現までのオキサリプラチン累積投与量への影響スタチン系薬剤併用群およびスタチン系薬剤非併用群の患者における末梢神経障害発現までのオキサリプラチン累積投与量をカプランマイヤー法により表記し、log-rank検定を行った。希少疾患や難治性疾患等様々な疾患に対して使用されている。さらに、大規模医療情報を活用することで発現頻度が一定にならない有害反応に対しても開発が可能となり、ヒトに関するデータであるため臨床応用の可能性も高い。大規模医療情報は既存承認薬を実際の患者に対して適応した際のデータが多数含まれており、ドラッグリポジショニングへとスムーズに応用できる。 大規模医療情報データベースに加えて、生命科学情報データベースを活用したドラッグリポジショニング手法はヒトにおける有効性を予測できるだけでなく、作用機序検討の可能性も示すことができる。本研究では、遺伝子発現データベース、創薬ツールを活用することで、Gstm1がスタチン系薬剤の神経保護作用に関与している可能性を明らかにした。実際に、末梢神経障害モデルラットのDRG組織サンプルを用いたリアルタイムPCRにより、スタチン系薬剤がGstm1の発現増加に関与していることが明らかになった。さらに、Gstm1 siRNAをPC12細胞にトランスフェクションすることで、末梢神経障害に対するスタチン系薬剤の抑制効果が低下した。ミトコンドリア機能障害による酸化ストレスはOIPNのメカニズムの1つであり、抗酸化物質はOIPNを抑制することが動物実験および臨床試験において報告されている13)。スタチン系薬剤は Gstm182(mg)
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