*1 NAKAMURA HIROYUKI *2 AKAMATSU WADO *3 NINOMIYA HARUAKI *4 MURAYAMA TOSHIHIKO 千葉大学大学院薬学研究院 薬効薬理学研究室中村 浩之*1 赤松 和土*2 二宮 治明*3 村山 俊彦*4はじめに要 旨 ニーマン・ピック病C型(Niemann-Pick disease type C; NPC)は細胞内コレステロール輸送を担う蛋白質のNPC1またはNPC2をコードする遺伝子の変異により発症する神経変性疾患(常染色体劣性遺伝病)である。NPC患者の95%はNPC1遺伝子に、残りの5%はNPC2遺伝子に変異をもつ。その結果、遊離型コレステロールやスフィンゴ脂質などの脂質が細胞内の後期エンドソーム/リソソームに蓄積し、進行性の神経症状や肝脾腫などを呈する。スフィンゴ糖脂質合成の初発酵素であるグルコシルセラミド合成酵素の阻害薬であるミグルスタットは、スフィンゴ糖脂質の蓄積を軽減することで治療効果を発揮する。しかしながら、ミグルスタットは千葉大学大学院薬学研究院 薬効薬理学研究室順天堂大学大学院医学研究科 ゲノム・再生医療センター鳥取大学医学部 生体制御学遊離型コレステロールの蓄積を軽減することはできない1)。従って、ミグルスタットの治療効果は限定的であり、新たな治療薬の開発が望まれている。 NPCの発症とスフィンゴ脂質代謝異常との関連性がいくつか報告されている。NPC細胞ではスフィンゴシンが蓄積しているが、このスフィンゴシンが後期エンドソーム/リソソーム内のCa2+濃度を低下させて、遊離型コレステロールの蓄積を誘導する、というモデルが提唱されている2)。実際にスフィンゴシンをリン酸化してスフィンゴシン-1-リン酸を生成する酵素であるスフィンゴシンキナーゼを活性化するVEGFをNPC1欠損マウス(NPC1-/-マウス)に投与すると、スフィンゴシン量が低下し、遊離型コレステロールの蓄積が軽減され、マウスのKey words:ニーマン・ピック病C型、セラミドキナーゼ、セラミド-1-リン酸、細胞内コレステロール輸送、スフィンゴ脂質 ニーマン・ピック病C型(Niemann-Pick disease type C; NPC)は細胞内コレステロール輸送を担う遺伝子のNPC1またはNPC2の変異により発症する脂質蓄積症で、中枢神経系障害を主徴とする。本研究ではNPC発症に おけるスフィンゴ脂質の役割を解析した。その結果、NPC1を欠損した細胞・マウス脳、およびNPC患者の 血漿において、セラミド-1-リン酸のレベルが正常対照群に比べて高いことを新たに見出した。さらに、NPC細胞 において、セラミド-1-リン酸を生成する酵素のセラミドキナーゼを阻害すると、遊離型コレステロールの蓄積が 軽減すること、また、NPCマウスのセラミドキナーゼを遺伝的に欠損させると、神経脱落が抑制され、生存 期間が延長することを見出した。これらの結果から、セラミドキナーゼの阻害はNPCの新たな治療戦略となることが明らかになった。Elucidation of the pathophysiology and development of a novel therapeutic agent of Niemann-Pick disease type C86ニーマン・ピック病C型の病態解明と新規治療薬の開発
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