臨床薬理の進歩 No.43
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ニーマン・ピック病C型の病態解明と新規治療薬の開発は低分子量 G 蛋白質の Rab9 が調節することが知られている。NPC1 -/- 細胞に GFP-Rab9 を一過性発現させたところ、遊離型コレステロールの蓄積が軽減されたが、C1P を細胞に添加すると、GFP-Rab9が発現している細胞においても遊離型コレステロールの蓄積が観察された(図 3I)。また、NPC1 -/-細胞に Rab9 の恒常活性化型変異体(GFP-Rab9Q66A)を一過性発現させたところ、C1P を細胞に添加しても 遊 離 型 コ レ ス テ ロ ー ル の 蓄 積 が 軽 減 さ れ た(図 3I)。次に、NPC1 -/- 細胞に Rab9 の恒常不活性型変異体(GFP-Rab9S21N)を一過性発現させたところ、NVP-231 を処理しても遊離型コレステロールの蓄積が軽減されなかった(図 3J)。これらの結果から、NPC1-/- 細胞では C1P が後期エンドソームからゴルジ体への小胞輸送を阻害することによって、遊離型コレステロールの蓄積を促進することが示唆された。疾患特異的 iPS 細胞を活用した解析 健康成人および NCP 患者に由来する皮膚線維芽細胞から iPS 細胞を樹立した。図 4A に示すように、iPS 細胞をニューロンに分化させ、フィリピン染色を行った。その結果、NPC 患者に由来するニューロンにおいては、健康成人に由来するニューロンに比べて遊離型コレステロールが蓄積している様子が観察され、この遊離型コレステロールの蓄積はNVP-231 の処理により軽減された(図 4B、C)。次に、iPS 細胞に由来するニューロスフェアの数を継代の際に測定したところ、健康成人に由来するニューロスフェアの数は継代ごとに増加したが、NPC 患者に由来するニューロスフェアの数は減少した(図 4D)。また、1 回目の継代時から NVP-231を処理すると、2 回目の継代時における NPC ニューロスフェアの減少が改善される傾向が示された(図4E)。これらの結果から、NPC 患者において CerKはニューロンにおける遊離型コレステロールの蓄積およびニューロンへの分化異常を誘発する可能性が示唆された。できることを確認した(図 2B)。この条件で培養した NPC1 -/- 細胞においては、BODIPY-Cer の局在はゴルジ体であり、異常な局在は改善されていた。さらに、LPDS での培養は、NPC1 -/- 細胞における BODIPY-C1P の産生亢進を抑制した(図 2C)。これらの結果から、NPC 細胞では遊離型コレステロールの蓄積に起因したセラミドの細胞内局在の異常により C1P の産生が亢進することが示唆された。NPC における細胞内コレステロール蓄積と C1Pの関連性 NPC における細胞内コレステロール蓄積と C1Pの関連性について検討した。NPC1 -/- 細胞においてCerK 阻害剤の NVP-231 を処理すると、遊離型コレステロールの蓄積が軽減されることをフィリピン染色およびコレステロール量の測定により確認することができた(図 3A-C)。また、NPC1* 細胞においても同様に、NVP-231 は遊離型コレステロールの蓄積を軽減した(図 3D、E)。次に、NPC1* 細胞の CerK を siRNA によりノックダウンすることを試みた。CerK に対する siRNA を NPC1* 細胞および正常対照細胞にトランスフェクションし、48 時間培養することで、CerK の mRNA 量および C1P の産生が抑制されることを確認した(図 3F)。この時の遊離型コレステロールをフィピリンにより観察したところ、NPC1* 細胞における遊離型コレステロールの蓄積が CerK のノックダウンにより軽減されることが示された(図 3G、H)。 NPC1 を 発 現 し な い NPC1 -/- 細 胞 に お い て もCerK の阻害が遊離型コレステロールの蓄積を軽減したことから、CerK を阻害することにより、NPC1 に依存しないコレステロール輸送が改善される可能性を考えた。NPC 細胞では NPC1 の欠損に加えて、後期エンドソームからゴルジ体への小胞輸送の異常によりコレステロールが後期エンドソーム /リソソームに蓄積することが知られている。そこで、CerK の阻害が小胞輸送を改善させる可能性を検証した。後期エンドソームからゴルジ体への小胞輸送91

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