臨床薬理の進歩 No.43
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小胞輸送異常NPC1欠損遊離型コレステロール蓄積エンドソームにおいてセラミドとCerKが共局在グリア細胞活性化図6 本研究の想定モデルC1P生成の亢進神経脱落考  察138日であった。これらの結果から、CerKとグルコシルセラミド合成酵素を同時に阻害することがNPCの治療に有効である可能性が示唆された。新規CerK阻害薬の開発 約20万種類の化合物ライブラリーからCerK阻害作用を有する化合物を探索した。精製したCerKを用いたin vitroでのハイスループット・スクリーニングおよび細胞におけるスクリーニングにより、約50種類のヒット化合物を得ることに成功した。現在は、NPC細胞や疾患特異的iPS細胞を活用したスクリーニングにより、化合物を絞り込んでいる。 NPCは後期エンドソーム/リソソームに遊離型コレステロールやスフィンゴ脂質が蓄積することが知られている。本研究においても、NPC1が欠損した細胞やマウス脳において、セラミド、スフィンゴミエリン、スフィンゴシンなど、様々なスフィンゴ脂質が蓄積していることを確認した(data not shown)。また、NPC患者の血漿中のグルコシルセラミドおよびC16:0-セラミドが健康成人に比べて増加していることが報告されている8)。本研究においてもこれらスフィンゴ脂質量がNPC患者の血漿中で健康成人に比べて高いことを確認した(data not shown)。さらに、本研究ではNPC細胞、NPCマウス脳、およびNPC患者の血漿において、C1Pの量が正常対照群に比べて有意に高いことを新たに発見した(図1A-D)。また、蛍光標識セラミドを用いた実験により、NPC細胞ではCerKに依存したC1Pの生成が亢進していることが示された(図1E、F)。CerKの細胞内局在は主にエンドソームであることが知られている。本研究においてもCerKは主にエンドソームに局在しており、この細胞内局在はNPC1-/-細胞とコントロール細胞の間で顕著な差は観察されなかった(図2A)。CerKの基質であるセラミドはNPC1-/-細胞においてエンドソームに蓄積することが報告されている9)。本研究においてもNPC1-/-細胞では蛍光標識セラミドがエンドソームに蓄積し、この異常な局在はLDLを含まない血清で細胞を培養することにより改善されることが示された(図2B)。従って、NPC細胞ではNPC1が欠損することで遊離型コレステロールが蓄積し、これが原因でセラミドがエンドソームに蓄積し、CerKを介したC1Pの生成が亢進する可能性が考えられる。さらに、このC1P生成の亢進がRab9依存性の小胞輸送を阻害することで、2次的な遊離型コレステロールの蓄積を誘導する可能性がある(図6)。 NPC1-/-マウスのCerKを遺伝的に欠損させると、遊離型コレステロールの蓄積が軽減し、生存期間が延長することが本研究により示された。NPCではグリア細胞が活性化して神経脱落を促進することが知られている。NPC1-/-マウスの脳においてはTNFα、IL-1β、IL-6のレベルが高いこと10,11)、NPC細胞においてはコレステロールが蓄積するエンドソーム/リソソームにToll-like receptor 4が蓄積することで、IFN-β、IL-6、IL-8などのサイトカインを恒常的に分泌することが報告されている12)。また、NPC1-/-マウスにおいてIL-6を遺伝的に欠損させると、グリア細胞の活性化が抑制され、生存期間が延長することも報告されている12)。従って、NPC1-/-マウスでは、遊離型コレステロールの蓄積によるサイトカインの産生亢進がグリア細胞を活性化し、神経脱落を誘発すると考えられる。95

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