臨床薬理の進歩 No.43
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*1 WADA SATOSHI *2 IEGUCHI KATSUAKI 昭和大学臨床薬理研究所、昭和大学臨床薬理研究所 臨床腫瘍診断学部門*3 OHKUMA RYOTARO 昭和大学医学部内科学講座 腫瘍内科学部門*4 TAKAYANAGI DAISUKE 昭和大学臨床薬理研究所、昭和大学臨床薬理研究所 臨床腫瘍診断学部門*5 TSUNODA TAKUYA *6 KOBAYASHI SHINICHI 昭和大学臨床薬理研究所和田 聡*1  家口 勝昭*2 大熊 遼太郎*3 高柳 大輔*4 角田 卓也*5 小林 真一*6はじめに要   旨 CAR-T(Chimeric Antigen Receptor-T cell 、キメラ抗原受容体T細胞)療法は、免疫チェックポイント阻害剤と共に有望ながん免疫療法として注目されている。CAR-T療法では、血液がんに対して高い抗腫瘍効果が認められている一方で、固形がんに対しては明らかな抗腫瘍効果はまだ認められていない。その原因の一つとして、血液がんにおけるCD19に相当するような適切な標的抗原が少ないことが挙げられる。本研究にて申請者らは、固形がんの根幹に関わる3種類の新規分子を同定した。さらに、膵臓がんの腫瘍組織検体を用いて、腫瘍細胞に発現する新規分子上の糖鎖を同定する方法を確立することで、新規分子の糖タンパクを標的とするCAR-T療法の開発に向けた基盤的研究を行った。その結果、新規分子の一つであるPIGR(多量体免疫グロブリン受容体)は、正常細胞と腫瘍細胞では糖鎖修飾が異なっている可能性を見出した。本研究成果により、究極の腫瘍特異的な抗原を同定することが可能となり、今後の腫瘍特異的ながん治療の発展に大いに貢献できるものと考える。昭和大学臨床薬理研究所、昭和大学臨床薬理研究所 臨床腫瘍診断学部門、昭和大学医学部内科学講座 腫瘍内科学部門昭和大学医学部内科学講座 腫瘍内科学部門に対して臨床的有用性を認めた3,4)。しかし、固形がんにおいては臨床的な有用性が認められた報告例はまだなく、世界中で研究開発が行われている。研究の進展により、強力な細胞障害活性を示すCAR-T細胞が開発されているが、強力であるがゆえの副作用によって開発が進まない現実もある。これまでにも、上皮成長因子受容体2(ERBB2)に対するCAR-T療法において、ERBB2を僅かに発現する正常肺への障害による死亡例が報告されている5)。このように、CAR-T療法における理想の標的抗原は、正常細胞には全く発現を認めず腫瘍細胞にのみ強く発現する、がんに重要な分子である。しかし、そうした理想の標的抗原は現実的には少ない。特にKey words:糖鎖、腫瘍抗原、レクチン、CAR-T療法、固形がん98Development of novel cancer immunotherapy focusing on the glycosylation of tumor cells 2018年のノーベル医学・生理学賞を機に、がん免疫療法はこれまで以上に多くの人々からの関心を集めると同時に、今後の発展が強く期待されている。免疫チェックポイント阻害剤は、がん患者に対する従来の化学療法とは全く異なる機序の薬剤として開発され、その治療効果の特徴として、腫瘍の縮小のみならずがん患者の長期生存も認められ、がん治療に強いインパクトを与えた1,2)。また、もう一つの新しいがん免疫療法であるキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor:CAR)遺伝子導入T細胞療法(CAR-T療法)が、B細胞性の造血器腫瘍腫瘍細胞の糖鎖構造に着目した新規がん免疫療法の開発

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