臨床薬理の進歩 No.43
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対象と方法ミンD1受容体結合能は、健常者と同等であることが示されている12)。これらのことから、低いD2受容体結合能を正常化させることが、注意欠陥・多動性障害や物質使用障害に見られる衝動性の改善、ひいては疾患の治療に寄与する可能性が考えられるが、これまでドパミンD2受容体アゴニスト作用をもつ薬剤が物質使用障害を含む嗜癖性疾患へ効果を持つことを示すエビデンスは存在しない。ドパミンによる神経伝達は、心理学でいう“強化”にとって大きな役割を果たすことが知られているが、強化が起こるためには刺激に対して適したタイミングと適したトーンの神経伝達が起こる必要があると考えられる。受容体アゴニストは、その化学的特性によって恒常的なドパミン伝達機能の低下を補う力はあっても、内因性のドパミン伝達をタイミングやトーンまで模することができないことは明らかである。つまりドパミンD2受容体結合能を増加させ、D2受容体を介した神経伝達機能を向上させることが治療的効果を持つ可能性が考えられるわけだが、現在のところヒトを対象として、薬物療法によるD2受容体のアップレギュレーションの可能性を検討した研究は存在しない。 アデノシン2A(A2A)受容体とD2受容体はいずれもGタンパク質共役型受容体で、線条体の中型有棘細胞のうち大脳基底核の間接路を構成するGABAニューロンに選択的に発現している。これら2つの受容体はヘテロマーと呼ばれる複合体を構成しており、アロステリック効果と呼ばれる相互的な機能調節が働いており13)、ラットの培養細胞を用いた基礎実験では、選択的A2A受容体アンタゴニストが、D2受容体の細胞体内への内在化を抑制する働きを持つことが示されている。さらにヒトを対象としたPETを用いた研究で、他のサブタイプのアデノシン受容体にもアンタゴニストとして作用するカフェインの投与によって、線条体D2受容体結合能が増加することが報告されている14)。これはA2A受容体の遮断によってD2受容体の神経細胞体への内在化が抑制され、受容体密度が増加したことを反映した結果であると考察されている。 現在、ヒトへの安全性が明らかになっている唯一の選択的A2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病治療薬として日本やアメリカ合衆国などで使用されている、イストラデフィリン(ノウリアスト®)である。これはカフェインのアナログで、日本で開発され2013年に上市された薬剤で、運動症状の改善やドパミン作動薬の長期使用に伴うウェアリングオフ時間の短縮など臨床症状の改善効果に加え、高い忍容性が報告されている15)。 本研究は健常者を対象とし、PETによる脳内受容体イメージング手法を用いて、イストラデフィリンが、ヒトの生体脳において線条体ドパミンD2受容体結合能に与える影響を評価することを主目的とした、プラセボ対照ランダム化二重盲検比較試験である。倫理的配慮 本研究は国立精神・神経医療研究センター臨床研究審査委員会による審査をうけ、承認を得た上で特定臨床研究として行った。承認番号はCR18-011。臨床研究実施計画・研究概要公開システム(jRCT)における臨床研究実施番号はjRCTs031180131である。すべての被験者に対して研究内容について文書を用いて説明し、同意書を使用して被験者の同意を確認した。対象と研究全体のフロー 研究対象者は向精神薬を服用していない健康な成人男性(20〜65歳)でかつ非喫煙者である。近隣の公民館などでのポスター配布やNCNPのホームページへの被験者募集の告知を用いた募集に加え、国立精神・神経医療研究センターの運営するIROOP®(Integrated Registry Of Orange Plan)を使用して被験者募集を行った。対象を男性に限定したのは、女性の性周期によるD2受容体結合能への影響を懸念したことが理由である。 応募してきた研究対象者は、脳病態統合イメージ110

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