臨床薬理の進歩 No.43
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謝  辞利益相反受容体結合能が健常被験者と比較して低いことは、過去の研究で繰り返し示されてきた7,8,16)。これらは観察研究で得られた結果であり、因果関係を保証するものではない、つまり元来D2受容体結合能が低いことが物質使用障害になりやすくなる原因となっている可能性も無視できない。だが多くの依存性物質が脳内における一過性のドパミン分泌を引き起こすこと17)や、Gタンパク質共役型受容体はアゴニスト作用をうけることによって脱感作や神経細胞体への内在化をきたす18)ことを考慮すれば、繰り返される依存性物質の使用によって蓄積的にD2受容体のダウンレギュレーションを起こすという考え方には19)一定の説得力があるといえる。さらにヒトの神経膠芽腫から採取した細胞を使ったin vitro実験でも、A2A受容体とD2受容体を同時にアゴニストで刺激することで両方の受容体が同時に神経細胞体に内在化することが示されている20)。よってA2A受容体アンタゴニストはD2受容体の内在化を防ぐことによって、アップレギュレーションを起こす可能性がある。 本研究で我々が使用したのと同じ、[11C]racloprideを使ってカフェインのもつドパミンD2受容体結合能への作用を検討した研究では、カフェイン300 mgを一度投与した後にD2受容体結合能が上昇することが、やはり健常被験者で示されている14)。この研究ではその効果をA2A受容体のアンタゴニスト作用によるものと結論づけていたが、カフェインはA2A以外のアデノシン受容体サブタイプに対してもアンタゴニストとして作用する21)。そのため、必ずしもA2A受容体を遮断したことによる結果だとは言い切れない。またその研究はランダム化二重盲検デザインではなく、単純なプレ対ポストの比較だったが、介入の効果を検討するにはやはりランダム化二重盲検が望ましい。本研究では、日本で開発されたA2A受容体に選択的にアンタゴニスト作用をもつ、イストラデフィリンを用いて、ランダム化二重盲検デザインをもって介入前後のPETスキャンでドパミンD2受容体結合能の潜在的変化について検討する。被験者は2回目のPETスキャンの当日にも薬剤を内服しており、もし変化を認めた際にもイストラデフィリンの急性効果によるものなのか、持続的な効果があるのかの区別はつかないということは今後の課題であり、それを判断するには投与終了後、一定期間をあけてPETスキャンを行う必要がある。とはいえ、もしイストラデフィリンによるD2受容体結合能の上昇を認めた場合、D2受容体機能が損なわれている幅広い精神・神経疾患の治療の開発に役立つ可能性がある。 新型コロナウイルス感染症の流行により本研究も大きな影響をうけ、半年以上におよぶ中止を余儀なくされた。被験者募集は終了し、画像データの解析はすべて完了しているが、前述の通り現在研究をクローズさせる途中であり、開鍵作業中である。そのため、本研究の主目的を検証することが現時点ではできない。開鍵が完了次第、統計解析を行う予定である。研究期間は2021年12月で終了する。 本研究は臨床薬理研究振興財団の研究助成によって遂行が可能となりました。研究を行う機会を賜りましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。 本研究に関して、筆者らに開示すべきCOIはありません。114

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