臨床薬理の進歩 No.43
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方  法結  果いるが、臨床試験の結果ではその奏効率はおよそ40%であり、半数以上の患者は本薬剤に対して不応である5,6)。このことは、オンコメタボライト非依存性の腫瘍生存・増殖経路の存在を示唆している。また、IDH2阻害剤は細胞死誘導よりも細胞分化を誘導することにより治療効果を発揮する薬剤であるが、臨床試験の結果から治療後の残存変異陽性細胞の割合と薬剤への反応性は逆相関することが示され5)、変異陽性細胞に二次的遺伝子変異が加わることにより耐性を獲得した症例も報告されている7)ことから、本薬剤に加えて細胞死を誘導する薬剤を併用することにより本疾患の予後改善が期待できると考えられる。 本研究では、細胞代謝に着目してこのIDH2変異AMLにおけるオンコメタボライト非依存性経路の分子メカニズムを明らかにし、これを標的とすることで変異型IDH2阻害剤耐性クローンを駆逐し、結果としてIDH2変異AMLの予後を改善しうる新規治療法を開発することを目的とした。細胞培養 CRISPR/Cas9によりIDH2遺伝子変異を導入したAML細胞株TF-1およびその親株であるIDH野生型TF-1細胞はAmerican Type Culture Collection (ATCC)より購入し、10%血清を添加したRPMI1640培地にて培養した。維持培養ではヒトGM-CSF 2 ng/mLを加えて培養したが、薬剤添加実験では細胞をPBSで一度洗浄した後GM-CSF不添加培地に置き換えて阻害剤を加え培養し、生細胞数の変化をトリパンブルー染色を用いて評価した。メタボローム解析 上記細胞株を阻害剤添加条件で10日間培養した後回収し、細胞内代謝物を抽出後CE-TOFMS、 CE-QqQMSおよびGC-MSを用いて分析を行った。得られたデータはウェブベース解析ツールであるMetaboAnalyst (https://www.metaboanalyst.ca/)8)を用いて解析した。薬剤スクリーニング IDH2遺伝子変異TF-1細胞を代謝阻害剤ライブラリに含まれる薬剤存在下に7日間培養し、細胞数の変化をDMSO添加コントロール細胞と比較した。アポトーシス解析 上記細胞株を阻害剤添加条件で3~10日間培養した後回収し、Annexin Vおよび7-AADで染色、その陽性率をフローサイトメトリーを用いて測定した。RNAシークエンス解析 上記細胞株を阻害剤添加条件で10日間培養した後回収、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてRNAを抽出し、ライブラリ調製後NextSeq 500(Illumina) を使用してシーケンスした。得られたシーケンスデータはCLC Genomics Workbench(Qiagen)を用いてマッピングし、定量化した。Gene Ontology (GO)解析はウェブベース解析ツールであるDAVID(https://david.ncifcrf.gov/home.jsp)9,10)を用いて行った。統計解析 2群間の比較はt検定により行った。p<0.05を有意差ありとした。変異IDH2阻害剤耐性AML細胞モデル サイトカイン依存性AML細胞株であるTF-1を親株とするIDH2遺伝子変異TF-1細胞は、GM-CSF添加条件下ではIDH2野生株と同様の増殖を示したが、サイトカイン非添加条件下では、IDH2野生株が増殖を停止したのに対しIDH2変異株はサイトカイン非依存性増殖を示した。このIDH2変異株を変異IDH2阻害剤存在下に培養したところ、細胞増殖は抑えられたが、IDH2野生株と比較すると有意に高い増殖性を示し、変異型IDH2阻害剤に対し125

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