臨床薬理の進歩 No.43
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謝  辞利益相反活性が低下する脂質代謝適応が起こっており、それによる細胞内アラキドン酸濃度の低下を介してアポトーシス耐性となっているというメカニズムが考えられる。この薬剤耐性は抗炎症薬として既に臨床現場で使用されているCOX2、5-LOX特異的阻害剤の併用により改善することが示され、このことは既に臨床応用されている薬剤を応用するドラッグ・リポジショニングにより治療耐性AMLの予後を改善できる可能性を示唆している(図7)。 近年AMLの新規治療法として細胞死を抑制する働きを持つタンパクであるBCL2の阻害剤が注目を集め、特に高齢者など強力な治療に耐えられない患者において標準治療になりつつあるが14)、本剤の有効性の背景にある詳細な分子メカニズムは不明であった。本研究はIDH2変異AMLの薬剤耐性獲得の背景に脂質代謝適応に基づく細胞死耐性のメカニズムがあることを明らかにしたが、これは上記メカニズムの一端を説明できるものであると考えられる。 血液悪性腫瘍の治療薬には強い副作用を伴うものが多く、根治にはそのような薬剤を複数併用する必要があり、大きな苦痛を伴うものと考えられてきた。上記のBCL2阻害剤にも造血機能が低下する骨髄抑制などの副作用がある。そのような領域において安全性が既に確認済みで副作用の少ない抗炎症薬のドラッグ・リポジショニングによる安全な治療により薬剤耐性が克服できれば、薬剤副作用により使用可能薬剤が制限される症例に対し治療選択の幅が広がるなど、IDH2変異AML患者の予後改善のみならずquality of life(QOL)改善にも大きく貢献できると考えられる。 細胞内代謝に着目した解析によりIDH2変異AMLが脂質代謝適応を介して薬剤耐性を獲得しているというメカニズムを明らかにした。今後はCOX2、5-LOX特異的阻害剤の併用による治療成績改善の可能性につき、xenograftマウスモデルを用いたin vivo実験により検証していく必要がある。 本研究の遂行にあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深く御礼申し上げます。 本研究に関し開示すべき利益相反はありません。130

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