臨床薬理の進歩 No.43
147/233

対象と方法有意に役立つことが分かった5)。また、その予測式を用いて、申請者らが中心となり、下顎形成術患者症例において、個々人ごとに術後鎮痛薬の1回投与量を事前に決定し投与を行うという、個別化疼痛治療法を開始した。 申請者ら以外の国内外の研究においても、術後痛のみならず、がん性疼痛に関しても、鎮痛薬の効果及び副作用(有害反応)と関連する遺伝子多型は複数報告されている。しかしながら、そのような遺伝要因の多くは、必ずしも再現性が充分に示されておらず、また詳細については未解明の部分も多い。特に、がん性疼痛患者に対するGWASによるオピオイド鎮痛薬の効果及び有害反応の遺伝要因の探索研究は、申請者ら以外の研究においては本邦では皆無であり、また、そのような遺伝子情報を利用した鎮痛薬の効果及び有害反応を予測する数式なども、これまで構築されていない。がんの治療においてはプレシジョン医療が実現されつつあるものの、緩和医療においては、そのための研究基盤が充分に整えられておらず、将来的なプレシジョン医療実現のための基盤構築のための研究は急務であると言えよう。目的 本研究は、がん性疼痛患者におけるオピオイド鎮痛の個人差には未解明の遺伝要因が多く存在するとの仮説に基づき、がん患者におけるゲノム全体の各種の遺伝子の型と、麻薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール、トラマドール等のオピオイド)の鎮痛効果・有害反応の関係を明らかにすることを目的とする。一方、本研究のゴールとして有力候補となる遺伝子多型が同定された場合には、麻薬性鎮痛薬の効果並びに有害反応を予測可能な数式を構築し、またその予測式の有用性を検証することも目的とする。 本研究で解析に用いた遺伝子試料及び臨床データは、共同研究先である東札幌病院(照井健院長)により、同病院に通院したがん患者429例においてこれまでに収集され、代表研究者らの所属研究室において保管されている。臨床データは、疼痛コントロールのためのオピオイド投与量及び有害反応発生有無(嘔気、嘔吐、掻痒、呼吸抑制など)を含む。これら遺伝子試料・臨床データは、個人情報管理者により匿名化され、遺伝子試料及び臨床データがどの患者のものか特定されないよう管理されている。 代表研究者らの所属研究室において保管されている429例分のゲノムDNAの検体を、合計約65万以上の一塩基多型等の遺伝子多型を含むマーカーのシグナル強度判定が可能なInfinium Asian Screening Array-24 v1.0 Kitのアレイ及び現有の網羅的遺伝子多型解析装置(iScan System;イルミナ株式会社)を用いたInfinium assay法により解析し、各マーカーのシグナル強度を決定した。GenomeStudio Genotyping Moduleソフトウェアにおいて、Call Frequency≧0.95及びCluster Sep≧0.1の基準を満たすマーカーを対象とし、また、Call Rate≧0.95の基準を満たすサンプルを対象とした。 各マーカーの遺伝子型採血時の3-7日前の平均値としての1日のオピオイドの合計投与量(mg/日)を経口モルヒネ投与量に換算した値(x)の対数変換値y(y=Ln(1+x))を表現型値とし、各マーカーの遺伝子型との関連性を解析した。オピオイドの合計投与量対数変換値(y)に関して、線形回帰分析の手法によりオピオイド投与必要量に関連する遺伝子多型を同定した。 解析は、臨床データの得られた428例を対象とし、Additive model、Dominant model、Recessive modelの各遺伝学的モデルにより関連解析を行った。GWAS全体の有意水準は対象検体全体の解析においてp<0.05 / 650,000 ≈ 7.69 × 10-8とした。遺伝子多型と臨床データとの関連解析には遺伝学的統計解析ソフトウェアPLINKを用いた6)。 本研究は所属機関である東京都医学総合研究所及び東札幌病院のヒトゲノム解析研究倫理委133

元のページ  ../index.html#147

このブックを見る