臨床薬理の進歩 No.43
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*1 MASUO YUSUKE *2 KATO YUKIO 増尾 友佑*1  加藤 将夫*2はじめに要   旨 トランスポーターBCRP(Breast Cancer Resistant Protein/ABCG2)は、小腸管腔側、肝臓胆管膜、血液脳関門の基底膜側の細胞膜に発現し、基質化合物を細胞外へ排出する1)。ABCG2の遺伝子多型の一つであるc.421C>Aと野生型のヒト個体間では、複数のBCRP基質となる薬物で体内動態が変化することから、BCRPはこれらの基質薬物の体内動態の規定因子の一つである。このうち、sulfasalazineとrosuvastatinは、BCRP阻害を介した薬物相互作用の評価に用いられるプローブ薬物として提唱され、rosuvastatinのAUCはBCRP阻害剤のfebuxostatによって2.1倍に増加した報告がある2)。 医薬品の開発過程において、BCRPの阻害ポテンシャル評価が求められる。トランスポーターの内因性基質は、in vivoにおいてトランスポーターの阻害するバイオマーカーに活用可能であり、プローブ金沢大学医薬保健研究域薬学系 分子薬物治療学研究室          同   上薬物との併用試験よりも汎用性が高い点で有用である3)。実際、coproporphyrinⅠ/Ⅲは、肝に発現する取り込みトランスポーターorganic anion transporting polypeptides 1B1(OATP1B1)の内因性基質であり、OATP1B1の阻害剤投与時にその血漿中濃度が増加する。他にも、organic cation transporter 2(OCT2)やorganic anion transporter 1(OAT1)といった取り込みトランスポーターでは、複数の内因性基質が同定されているものの、BCRPなどの排出トランスポーターのバイオマーカーは未だ同定されていない。BCRPの生体内または食餌由来の基質は、pheophorbide A4)、riboflavin A5)、尿酸6)、植物性エストロゲンの硫酸抱合体7)等が同定されている。しかし、これらのいずれの基質もBCRP阻害剤を投与された際に血漿中濃度が変化するかは不明であり、BCRP阻害ポテンシャルを評価するバイオマーカーに適用可能かは不明である。 Bcrpノックアウトマウスは、野生型マウスと比較Key words:トランスポーター、BCRP、薬物相互作用、バイオマーカー、メタボロミクス トランスポーターの生体内基質の血漿中濃度変化は、ヒトでの薬物相互作用予測に活用でき、排出トランスポーター BCRPの生体内基質同定を目的とした。大豆食品を混餌したマウスに、BCRP阻害剤lapatinibを投与すると、 daidzein sulfate(DS)の血漿中濃度が増加した。BCRP阻害剤としてlapatinibまたはfebuxostatは、DSおよびequol sulfate(ES)のAUCを、3.6および1.8倍、1.6および4.8倍、それぞれ増加させた。ヒトiPS細胞由来の小腸上皮様細胞の頂端膜側に親化合物を添加後、lapatinibまたはfebuxostatの存在下で、基底膜側へのDS、ESの出現が増加し、小腸のBCRPの阻害が示唆された。Lapatinibとfebuxostatは小腸のBCRPを阻害し、DS、ESの血漿中濃度を増加させた。BCRPを介した薬物相互作用評価に関して、臨床研究が必要である。148メタボロミクスによるトランスポーターの食餌由来バイオマーカー探索Searching for biomarkers of transporters from food-derived compounds by metabolomics

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