臨床薬理の進歩 No.43
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考  察性に発現させたExpi293F細胞から調製した細胞膜小胞において、BCRP基質であるLYはATP依存的に取り込まれ、典型的BCRP阻害剤のKo143とlapatinibがLYの取り込みを低下させたことから(図5A)、調製した膜小胞はBCRPを機能的に発現することが分かった。さらに、この膜小胞において、DSおよびESはATP依存的に取り込まれた(図5B、C)。DSおよびESの取り込みは、lapatinibの存在下で低下し(図5D)、IC50はそれぞれ0.04、0.02 µMと算出された。一方で、DSおよびESの取り込みは、febuxostatの存在下でも低下し(図5E)、IC50はそれぞれ0.09、0.05 µMと算出され、febuxostatはlapatinibよりもわずかに弱いBCRP阻害活性を有することが示唆された。 本研究では、2種類のBCRP阻害剤としてlapatinibとfebuxostatが、イソフラボンを多く食品を混餌投与したマウスで、DSとESの血漿中濃度を、BCRPプローブ基質薬物として投与したsulfasalazineと同様に増加させることを示した(図2)。これは、これらのイソフラボンの硫酸抱合体の体内動態にBCRPが関与することを示すものであり、daidzeinをBcrpノックアウトマウスに経口投与するとDSの血漿中濃度が野生型マウスよりも増加する過去の報告とも対応する11)。本研究は、イソフラボンの硫酸抱合体の血漿中濃度が、マウスへのBCRP阻害剤の投与で速やかに上昇することを初めて示した。遺伝子ノックアウトは、該当遺伝子以外にも、他のトランスポーターや酵素の発現を変化させることがあり、実際にBcrpノックアウトラットでは、catechol-O-methyltransferaseの発現量が変化している12)。そこで、本研究ではBCRP阻害剤を用いたマウスでのin vivo阻害実験で得られたサンプルによるアンターゲットメタボロミクス解析によって、BCRP阻害剤で変化するバイオマーカー探索を実施した。 BCRPは、小腸以外にも、腎尿細管、肝臓胆管、血液脳関門と幅広く発現している。小腸において、BCRPはsulfotransferaseと共発現しており、4-methylumbelliferone sulfateの体内動態に関与する。DSやESの小腸における体内動態を評価するために、ヒトiPS細胞由来小腸上皮様細胞(F-hiSIEC)で親化合物イソフラボン類の添加後の硫酸抱合体の基底膜側での出現を測定したところ、BCRP阻害剤lapatinibおよびfebuxostatの存在下でその出現は増加した(図4)。これは、lapatinibおよびfebuxostatが小腸においてイソフラボンまたはその硫酸抱合体のBCRPを介した排泄を阻害したことが示唆される。実際に、F-hiSIECではsulfotransferaseとBCRPの両方の発現が確認されている13)。また、ヒト結腸癌由来細胞のCaco-2においてBCRP阻害剤のKo143存在下で、GSの基底膜側での濃度が増加する過去の報告11)とも対応する。 本研究においてBCRP阻害剤のlapatinib(90 mg/kg)とfebuxostat(90 mg/kg)の最大血漿中濃度は、ともにヒトでの値とほぼ同等であり、同様なイソフラボン硫酸抱合体の体内動態変化が生じる可能性がある。実際に、febuxostatはヒトにおいてBCRP基質薬物であるrosuvastatinの血漿中濃度を増加させる。しかし、ヒトとマウスではイソフラボンの代謝に種差が存在し、ヒトにおけるdaidzeinおよびgenisteinの主な代謝物は、sulfoglucuronideである14)。イソフラボンの全身からの消失経路の違いが、BCRP阻害時における硫酸抱合体の体内動態に与える影響に関してはさらなる検討が求められる。 内因性化合物のみならず食餌由来の化合物も、トランスポーターを介した薬物相互作用評価に活用されており、例えばOAT1基質としてtaurineが同定された15)。DSやESもまた食餌由来の化合物であり、これらの血漿中濃度は食餌からの摂取量に影響され、個人間差の原因となる。ヒトにおいてDSの血漿中半減期は約3時間と短く、食餌からの摂取が主な要因となる。そこで、血漿中濃度を阻害剤投与前の血漿中濃度で補正することが、定量的な阻害活性評価に求められる。155

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