臨床薬理の進歩 No.43
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*1 OGAWA AIKO 小川 愛子*1 はじめに要   旨独立行政法人国立病院機構岡山医療センター 臨床研究部 分子病態研究室新たな治療薬の開発が急務である。 PAHの肺血管リモデリングの主因は、肺動脈平滑筋細胞(pulmonary arterial smooth muscle cells: PASMC)の過剰な増殖による血管壁肥厚であると考えられている1)。また、PASMCのアポトーシス耐性も指摘されている。したがって、PASMCの過剰増殖を引き起こすメカニズムを解明し、PAHの病態の理解を深めることが治療薬開発の上で最も重要である。このためには、臨床病態を適切に反映した妥当なPAHモデルが必要である。これまでにPAHの実験動物モデルとして、慢性低酸素またはモノクロタリン傷害モデルが報告されている2,3)。しかし、ヒトPAHの病理組織学的特徴の一部は、これらの動物モデルでは忠実に再現できていない。例えば、肺細動脈における内皮細胞増殖や不可逆的な中膜の線維化、plexiform lesion(叢状病変)Key words:肺高血圧症、肺動脈平滑筋細胞、疾患モデル、三次元培養、PDGFシグナル 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺小動脈内腔が狭窄・閉塞するために肺動脈圧が上昇し、右心不全に至る 難治性疾患である。PAHの病態悪化の主因は、肺動脈平滑筋細胞の過剰増殖による中膜肥厚である。病態解明と 新規治療薬開発のためには、細胞増殖と中膜肥厚のメカニズムを解明する必要がある。しかし、中膜肥厚を 再現したin vitroモデルが存在しないために、これまでその実現が困難であった。そこで、三次元細胞培養技術を 応用し、PAH患者由来肺動脈平滑筋細胞を用いて、肺動脈中膜肥厚を模倣したin vitroモデルを開発した。血小板 由来成長因子(PDGF)を添加することにより、この肺動脈中膜の三次元培養モデルの厚みが増加した。さらに、PDGF受容体阻害剤イマチニブやPAH治療薬を添加すると中膜肥厚が抑制された。肺動脈中膜肥厚に対する 各種薬物の効果判定に用いることができるこのモデルは、PAHの病態解明のみならず、治療薬候補の探索への 応用が期待される。159Fabrication of 3D in vitro model of vascular medial thickening  肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)は、肺血管のリモデリングにより肺小動脈の狭窄や閉塞が生じる結果、肺血管抵抗が増大し、肺動脈圧が上昇し、最終的に右心不全に至る難治性疾患であり、指定難病に認定されている。PAHの病態形成に関わる3つの主要な経路に介入する、肺動脈に特異的な血管拡張剤が多数開発された(エンドセリン経路を標的としたボセンタン/アンブリセンタン/マシテンタン、プロスタサイクリン経路を標的としたベラプロスト/エポプロステノール/トレプロスチニル/イロプロスト/セレキシパグ、一酸化窒素経路を標的としたシルデナフィル/タダラフィル/リオシグアト)。しかしながら、依然3年生存率は60%と予後不良であり、in pulmonary arterial hypertension肺高血圧症に対する新規治療薬開発に資する三次元培養モデルの開発

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