方 法形成などである2,4)。さらに、モノクロタリンによる肺高血圧症を予防あるいは回復させるとする薬剤はこれまでに30種以上報告されているが、このモデルにおける肺高血圧は、ヒトPAHとは異なり、比較的容易に改善することが知られている2)。この他にも動物モデルが複数開発されており、慢性低酸素モデルにSU5416を加えて内皮傷害を増強するなど、複数の傷害を負荷するモデルでは、ヒト重症PAHの病理組織像によく類似した組織所見を呈することが明らかになっている3,4)。 これらPAHの動物モデルに加えて、患者由来PASMCを用いた検討は、PAHの発症メカニズムをより深く理解し、新規薬剤候補の効果を判定するための特有のプラットフォームを提供しうる。PAH患者由来PASMCの疾患特異的な表現型については、特に血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor: PDGF)シグナルに関して多くの報告がある5,6)。PDGFシグナルは、4種類のPDGFアイソフォーム(PDGF-A、PDGF-B、PDGF-C、PDGF-D)が二量体化することで、5種類のPDGFリガンド(PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、PDGF-CC、PDGF-DD)が生じる。これに加えて、2つの受容体アイソフォーム(PDGFR-αとPDGFR-β)が二量体化して生じる3種類のPDGF受容体(PDGFR-αα、PDGFR-αβ、PDGFR-ββ)を介してシグナルを伝達する7)。PAHでは、PDGF-A、PDGF-B、および両方のPDGF受容体アイソフォーム(PDGFR-αとPDGFR-β)の発現が上昇していることが報告されている6,8)。そして、PAH患者由来PASMCは、PDGF-BBに対する増殖反応が亢進しており、イマチニブによりその増殖が抑制される5,6)。イマチニブは、慢性骨髄性白血病および消化管間質腫瘍に対して承認されている低分子量チロシンキナーゼ阻害剤であり、PDGF受容体の2つのアイソフォーム両方に対する阻害活性を有する。PAHにおけるPDGFシグナル構成要素の発現亢進、PDGFシグナルに対する増殖反応の増強、動物モデルにおけるイマチニブの肺高血圧改善効果などから、イマチニブはPAH治療薬の候補と考えられてきた5,6,8)。 しかし、これまでに発表された細胞を用いた研究は、平面培養システム(平面的な細胞培養用プラスチック基材上で培養された単層の細胞)で行われてきた。平面培養では、生体内で細胞が置かれている微小環境の重要な特徴を再現できないことが知られている。PAHにおいては、平面培養系ではその病理組織学的特徴である動脈の中膜肥厚を再現できない。PAH治療の最終目標を血管リモデリングを改善させることであるとすると、PAHにおける肺動脈中膜肥厚の三次元(3D)モデルが、新規薬剤候補の開発に有用であると考えられる。しかし、PAH患者由来PASMCで構成された3Dモデルはこれまでに報告されていない。 そこで我々は、PAH患者由来PASMCを用いて、PAHの肺動脈中膜の3D培養モデルを構築した9)。さらに、PDGFやPAH治療薬の候補であるPDGF受容体阻害剤イマチニブや、臨床で実際に使用されているPAH治療薬を用いて、このモデルに対する効果を検討し、本モデルが今後のPAH治療薬の病態解明や新規治療薬開発に応用可能となる可能性を示した。細胞単離と培養 国立病院機構岡山医療センターで剖検や手術時に得られたPAH患者肺組織から、既報のとおりPASMCを単離した5)。10%FBS DMEMを用いてコラーゲンIコートディッシュ上で、5%CO2、37 ℃の条件下で培養した。倫理的配慮 すべての実験は、国立病院機構岡山医療センター臨床研究審査委員会の承認を得て実施した。また、患者または近親者のいずれかから書面によるインフォームドコンセントを得た後に行った。肺動脈中膜3D培養モデルの作製 3D培養モデルは、既報の3D細胞培養法10)を用いて作製した(図1)。トリプシン処理したPASMC160
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