臨床薬理の進歩 No.43
193/233

コロナ禍での研究生活おわりに壊死の患者とステロイド以外が原因の大腿骨頭壊死の患者の破骨細胞の遺伝子発現状況は異なることを見出しました。これらの結果を2020年米国リウマチ学会と2021年米国骨代謝学会にて発表しました。2021年米国骨代謝学会においてplenary posterを受賞しました。現在論文化を進めております。また、コロナ禍の自宅待機中に全身性エリテマトーデスにおけるステロイド性大腿骨頭壊死の特徴に関して過去の報告をまとめ、総説論文として報告しました(Kaneko K, et al. Clin Transl Med 2021; 11: e526.)。 閉経後骨粗鬆症における新規バイオマーカーの探索の研究においては、ヒト循環血中に破骨細胞に分化し得るosteoclast precursor cell(OPC)を特定しました。特定したOPCはCSF1Rを発現しますが、CD66b、CD3、CD19の発現は認めません。OPCは、M-CSFとRANKLの刺激で破骨細胞に分化しました。一方で、OPCを持たない単球は、破骨細胞に分化しませんでした。また、OPCはCD14も発現しますが、形態学的にCD14+単球とは異なりました。さらに、閉経後骨粗鬆症患者と正常骨密度の女性の血中に出現するOPC数を測定し、閉経後骨粗鬆症患者におけるOPC数が正常骨密度の女性と比べて有意に増加していることを見出しました。また、OPC数と腰椎骨密度および骨吸収マーカーとの間に有意な相関関係があることを発見しました。OPCは骨減少患者の予後予測する細胞マーカーとして利用できる可能性が示唆されました。これらの結果を2020年米国骨代謝学会で発表しplenary posterを受賞しました。現在論文投稿を進めています。 COVID-19感染者数も死者数も圧倒的に多く、世界最悪のホットスポットと呼ばれたニューヨークでの研究生活についてお伝えしたいと思います。ニューヨーク州で最初のCOVID-19患者が確認されたのは2020年3月1日で、3月14日に最初の死亡例を認め、そこから爆発的に患者数が増えました。3月16日に米国の多くの研究機関と同様に、HSSにおいてもラボの閉鎖が通知され、COVID-19に関する研究従事者を除いて、研究者は自宅待機が指示されました。3月20日までの間に培養細胞などは凍結保存し、実験中のマウスの飼育数も70%減らすように指示されました。各ラボ1〜2人が必要要員として割り当てられ、サンプルや動物の管理などのみ研究室に入ることが許可されました。それ以外の研究員はラボに入ることができないようになりました。在宅勤務中に総説の執筆、文献検索、実験データのまとめを行っていました。定期的に行うラボミーティングは、オンラインミーティングに切り替わりました。研究プロジェクトの予期せぬ中断により、在宅勤務中はプロジェクトを終わらせることができるか不安な日々を過ごしていましたが、7月頃より徐々に細胞やマウスを使った実験が再開できるようになり、9月頃から患者検体を使用した実験も再開することができました。私は帰国までにプロジェクトの一部を終わらせることができましたが、研究途中で母国へ帰国となった研究者も少なくありませんでした。 今回、臨床薬理研究振興財団の多大なるご支援により充実した留学生活を送ることができましたこと、あらためて御礼申し上げます。研究留学経験を通して自分の世界観が広がりましたし、様々な刺激を受ける環境での研究や多様な考えを持つ人たちとの付き合いは何事にも代えがたい経験を得ることができました。COVID-19パンデミック、Black Lives Matter運動、米国大統領選挙と激動の中で無事に留学生活を乗り越えられたのは、多くの日本人研究者の方たち175

元のページ  ../index.html#193

このブックを見る