行うにはGeneral Medical Council(GMC)への登録が必要です。GMCに登録するには、日本の医師免許のほかに英語の能力を証明する必要があり、これが日本人医師にとっては大きなハードルになっていました。International English Language Testing System(IELTS)というTOEFLのイギリス版のようなテストで、Overall 7.5以上というスコアを取らねばならないのですが、わかりやすく換算するならばTOEICで満点以上に当たる得点のため、渡英前から必死に勉強しました。最終的には2019年12月の試験でOverall 8.0と目標以上のスコアを取得でき、GMC登録に必要な書類を提出するところまで進んだのですが、そこでCovid-19パンデミックに見舞われてしまい、結局GMCの登録は行わずに帰国することになってしまいました。そのため実際に私が行っていたことは、臨床研究のためのdata収集と、外来や検査の見学・お手伝いです。 外来は教授外来を主に見学していましたが、Gatzoulis教授と並行して2〜3人のfellowが外来を手伝っているため、教授は30分に1人程度のペースで診察していました。数年ぶりの体調チェックという患者さんも多いので、まずは日常生活について、食事や運動の様子を丁寧に問診し、診察台に移ってじっくりと身体診察を行います。患者さんは事前に心電図や心エコー、心肺運動負荷試験などを受けてきているため、その結果を説明し、次回の予約を受付で取るための指示書を渡して終了です。その後教授がボイスレコーダーに今日の診察内容を吹き込むと、後で医療秘書さんがそれをLetterとして文字に起こしてくれるシステムになっていました。英国の医療機関ではこのようにコメディカルの役割が大きく、医師は外来でカルテを書いたり予約を取得したりといった事務作業をしなくて済むので、その分患者さんの診察に時間を割けている印象でした。完成したLetterはRBHのサーバーに診療録として取り込まれるほか、GPへ郵送、また驚いたことに患者さん本人にも郵送されていました。そのため、どの患者さんも「何の病気で通院しているか?何の薬を飲んでいるのか?」という質問にすらすらと答えることができ、これは私にとっては衝撃でした。日本では、ACHD患者さんは小児科から移行してくる方が多いことと、病態が複雑なため、多くの若い患者さんが親御さん任せにしてしまっていたりして、ご自分が何のために通院しているのかはっきり答えることができません。このRBHのシステムはぜひ、日本の移行期医療にも生かしたい仕組みです。 毎週火曜日に近隣の総合病院であるChelsea & Westminster (C&W) Hospitalで行われる「妊娠外来」も非常に勉強になりました。この外来ではRBHのACHD consultant、C&W Hospitalの産科医、麻酔科医が同じブースで患者さんを同時に診察し、重症心疾患患者さんの妊娠経過を共有していました。出産自体はC&W Hospitalで行い、赤ちゃんはそのままNICUへ、お母さんはRBHのICUへ入院するという体制が取られており、私が見学している日にも完全大血管転移症術後のお母さんが無事に出産を終えていました。この心疾患患者の妊娠出産管理も、日本国内でも急激に需要が高まっている分野であり、貴重な症例をたくさん見せていただきました。 外来や検査のお手伝いのほかに、私にとって重要な仕事だったのは、毎週金曜日朝のMultidisciplinary Team Meeting(MDT)での症例プレゼンテーションです。MDTにはACHD consultantのほか、心臓外科医、麻酔科医、移植コーディネーター、手術室スタッフなど多くの関係者が参加し、一例一例について詳細に議論していました。私たちfellowは各consultantに代わって外来の症例について、Letterから情報を拾ってスライドで提示し、MDTでの議論の結果をまたLetterに起こしてconsultantに戻すという作業を行っていましたが、実際に多くの症例について詳細に勉強することができ、診療の組み180
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