臨床薬理の進歩 No.43
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を除いた9例をEBV関連腫瘍として、本研究では、9例のEBV関連腫瘍を除外した363症例の非EBV関連腫瘍で解析することとした。食道胃接合部腺癌におけるMSI-HとMSI-L腫瘍の頻度 MSI-PCR assayの結果、上記の非EBV関連腫瘍363症例のうち、28症例(7.7%)がMSI-Hに、24症例(6.6%)がMSI-Lに分類された(図3c)。本研究で用いたMSIマーカー6種類の陽性率をMSIステータス別にみてみると、MSI-H腫瘍では単一塩基リピートであるBAT25、BAT26、BAT40での陽性率が一様に高く、MSI-L腫瘍ではBAT40の陽性率が顕著に高かった(BAT40、58.3%、図3d)。さらに、MSIの原因とされるMMRタンパクの欠失を免疫染色で確認したところ、MSI-H腫瘍ではMLH1およびPMS2の欠失が7割以上で見られたのに対し、MSI-Lではこれら4つの主なMMRタンパクの欠失は認められず、それ以外のMMRタンパク異常が想定された(図3e)。MSIステータス別の臨床病理学的・分子生物学的特徴 非EBV関連腫瘍363例の臨床病理学的・分子生物学的特徴を、MSIステータス別に検討した。MSI-L腫瘍はMSI-H腫瘍よりも有意に若年が多く(p = 0.0037)、リンパ節転移状況はMSI-H腫瘍とMSSの中間的特徴を認めた(表1)。 CD8+リンパ球浸潤の検討では、MSI-L腫瘍はMSSと比較して、腫瘍内(intratumor)において有意に高度な浸潤を認めた(図3f、p = 0.048)。つまり、MSI-L腫瘍ではMSSとは異なり、抗腫瘍免疫が発動している状況であることが示唆された。一方、腫瘍辺縁部(invasive margin)ではそのような変化は認められなかった(図3g)。次に、腫瘍細胞におけるPD-L1陽性率(TPS 1%以上を陽性と定義)を検討したところ、MSI-L腫瘍のPD-L1陽性率はMSSと同じく低レベルであり、PD-1/PD-L1を介した免疫回避機構の関与は否定的であると考えられた(図3h)。MSI-H腫瘍においては、腫瘍内および腫瘍辺縁部の両方で有意にCD8+リンパ球浸潤を認め、またPD-L1の発現も22%の症例で認められた(図3f、3g、3h)。 次いで、TP53遺伝子変異、LINE-1メチル化レベル、消化器腺癌に代表的とされる11種類のCIMPマーカーのメチル化、およびHER2過剰発現に関して検討した。TP53遺伝子変異はMSI-L腫瘍で最も高頻度で検出され(85%)、特にtruncating変異は50%の頻度で認められた。これはMSI-H腫瘍やMSSと比較して有意に高率であり、MSI-L腫瘍に特徴的な変化であった(図4a)。LINE-1はゲノムワイドなメチル化の指標とされるが、MSI-L腫瘍では、3つのMSIステータスの中で最も低いLINE-1メチル化レベルを示し、エピジェネティックな発がん経路は否定的であることが示唆された(図4b)。同様に、代表的CIMPマーカーでも、MSI-H腫瘍におけるMLH1のメチル化は高頻度で認めたものの、MSI-L腫瘍に特徴的な変化は認められなかった(図4c)。HER2過剰発現に関しては、MSIステータス別の差異を認めなかった(図4d)。MSIステータス別の生存解析 生存解析では、MSI-H腫瘍同様にMSI-L腫瘍の予後は良好であり、疾患特異別5年生存率はMSI-H 82.7%、MSI-L 87.1%、MSS 59.8%であった(図4e、4f、4g、4h)。また多変量解析の結果、MSI-Lは独立した予後規定因子であることが判明した(MSSをreferenceとしたmultivariate mortality HR = 0.35, 95% CI, 0.12-0.82; p = 0.012; 表2)。MSI-L腫瘍におけるBAT40異常の有無による比較 BAT40陽性(unstable)を有するMSI-L腫瘍と、BAT40異常を有さないMSI-L腫瘍の臨床病理学的・分子生物学的特徴を比較したが、両者に有意な差異は認められなかった(データ開示なし)。さらに前者2例、後者1例のマイクロアレイ解析を行ったが、BAT40陽性のMSI-Lに特徴的な所見は認められなかった(データ開示なし)。48

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