臨床薬理の進歩 No.43
78/233

SOX2とSOX4の発現量はSMURF2T249A群で有意に上昇した一方で(図3B)、SMURF2WT群では有意に減少した(data not shown)。 次に、GSCの腫瘍形成能におけるSMURF2Thr249のリン酸化の影響をin vivoで検討した。GBMモデルマウスの生存期間は、SMURF2T249A群で著明に短縮した一方で(図3C)、SMURF2WT群では著明に延長した(data not shown)。さらに、SMURF2T249A群では、より大きな腫瘍を形成した一方で(図3C)、SMURF2WT群では、より小さな腫瘍を形成した(data not shown)。Empty vector(E.V.)群とSMURF2T249A群では、正常脳組織と比較し、腫瘍組織でSOX2の発現が増加していた。腫瘍組織において、E.V.群と比較しSMURF2WT群ではSOX2発現が有意に減少していたが、SMURF2T249A群では増加傾向を示した(data not shown)。以上の結果より、SMURF2Thr249のリン酸化修飾は、GSCの自己複製能と腫瘍形成能を制御する可能性が示唆された。GSCにおけるSMURF2Thr249リン酸化修飾のメカニズム解析 TGF-β/SMAD経路とBMP/SMAD経路は、GSCの幹細胞性と腫瘍形成性維持の制御において重要な役割を果たしている。したがって、GSCにおけるSMURF2Thr249のリン酸化修飾が、TGF-β/SMAD経路とBMP/SMAD経路を制御するか検討した。TGFBR1とTGFBR2のタンパク質発現量とSMAD2/3のリン酸化はSMURF2T249A群で有意に増加した一方で(図4A)、SMURF2WT群では減少した(data not shown)。BMPR2とBMPR1Aのタンパク質発現量とSMAD1/5/9のリン酸化はSMURF2T249A群とSMURF2WT群で変化はみられなかった(図4A)。以上のことから、GSCにおけるSMURF2Thr249のリン酸化修飾は、TGF-β- SMAD2/3経路を制御している可能性が示唆された。 GSCにおいてSMURF2Thr249のリン酸化がTGFBRタンパク質分解を制御しているか検討するため、タンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド(CHX)をGSCに曝露し、TGFBR1とTGFBR2のタンパク質発現量を評価した。E.V.群では、TGFBR1とTGFBR2のタンパク質発現量は経時的に減少し、8 h以内に検出不可となった(図4B)。SMURF2T249A群では、TGFBR1とTGFBR2のタンパク質分解が有意に抑制されたが(図4B)、SMURF2WT群では亢進した(data not shown)。 次に、SMURF2によるTGFBR分解におけるSMURF2Thr249のリン酸化の役割を検討した。IPにより、GSCにおいてSMURF2がTGFBR1と相互作用することが明らかとなった(図4C)。さらに、内因性のTGFBR1のユビキチン化は、SMURF2WT群で有意に亢進したが(data not shown)、SMURF2T249A群では有意に抑制された(図4D)。すなわち、SMURF2Thr249のリン酸化によりSMURF2のE3ユビキチンリガーゼ活性が活性化し、TGFBR1のタンパク質分解が亢進することで、GSCの自己複製能と腫瘍形成能の抑制に関与するTGF-β-SMAD2/3シグナルが抑制されることが示された。GSCの自己複製能と腫瘍形成能の調節に重要なSMURF2Thr249リン酸化修飾の標的因子の解明 次に、TGFBR1の分解抑制によるTGF-βシグナルの活性化が、SMURF2Thr249のリン酸化によるGSCの自己複製能と腫瘍形成能の制御に関与するか検討した。GSCにおけるSMURF2T249のリン酸化不活性化によるスフィア形成能の増強が、TGFBR1ノックダウンにより有意に減弱した(図5A)。さらに、GSCにおけるTGFBR1ノックダウンは、SMURF2T249A群で短縮したGBMモデルマウスの生存期間をレスキューし、有意な延長をもたらした(図5B)。最後に、ヒトグリオーマ病理検体において、SMURF2Thr249のリン酸化はTGFBR1タンパク質発現量と負の相関を示した(data not shown)。 以上の結果から、GSCの自己複製能と腫瘍形成能を制御するTGFBR1のタンパク質分解の調節において、SMURF2Thr249のリン酸化修飾が重要であることが示された。64

元のページ  ../index.html#78

このブックを見る