臨床薬理の進歩 No.43
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謝  辞性がんの根治の実現が期待される。つまり、がん幹細胞の幹細胞性維持機構の解明は、アンメットメディカルニーズの解消に貢献する喫緊の課題であると言える。 SMURF2は、腫瘍形成に関連するタンパク質の分解を制御することで、がん種によって、活性化因子としても、抑制因子としても機能することが報告されている。しかし、がんでSMURF2の変異や欠損はあまりみられないことから、がんにおけるSMURF2の詳細なメカニズムは明らかとなっていなかった。これまでに筆者らは、SMURF2の新規リン酸化サイトSMURF2Thr249を同定し、そのリン酸化修飾がMSCの幹細胞性維持に重要であることを報告している。本研究では、このMSCでの基礎研究成果を「がん幹細胞」に応用することで、「がん幹細胞の幹細胞性維持機構におけるSMURF2の機能的役割の解明」を試みた。 本研究の遂行により、GSCにおけるSMURF2のノックダウンが、GSCの自己複製能と腫瘍形成能の増強をもたらし、SMURF2Thr249リン酸化不活性化体の導入がその作用を再現することを見出した。一方で、GSCにおけるSMURF2の過剰発現は、自己複製能と腫瘍形成能の減弱を示すことを明らかにした。さらに、GBM病理検体においてSMURF2タンパク質レベルに変化はない一方で、SMURF2Thr249リン酸化レベルの著明な低下が観察された。以上のことから、SMURF2Thr249のリン酸化修飾が、TGFBR-SMAD-SOX4経路を介しGSCの幹細胞性と腫瘍形成性を制御する重要な翻訳後修飾である可能性が示唆された(図5C)。すなわち、SMURF2Thr249のリン酸化修飾を調節するキナーゼやホスファターゼは、GSCを標的としたGBM治療の新規創薬標的となりうることが期待される。また、本研究成果は、がん幹細胞の幹細胞性・腫瘍形成性維持機構に対する包括的な理解を促し、GBMだけでなくTGF-βシグナルの異常を伴うがんにおいても、SMURF2Thr249のリン酸化修飾が新規創薬標的となる可能性を示唆するものである。 本研究の遂行にあたり、多大なるご指導・ご支援を頂きました金沢大学平尾敦先生、中田光俊先生、東京大学藤堂具紀先生に厚く御礼申し上げます。また、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。67

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