*1 OKADA YOSHIAKI *2 MORITA MAAYA *3 TAKAHASHI JUNYA *4 KINOSHITA MAYUMI *5 DOI TAKEFUMI 岡田 欣晃*1 森田 真綾*2 高橋 潤也*3 木下 真由美*4 土井 健史*5はじめに要 旨 重症感染症に起因する敗血症では、血管透過性の過剰な亢進により致死的病態が誘導される。血管内皮細胞に特異的に発現するRobo4は、血管透過性を抑制し、敗血症マウスの生存率を高める作用を持つ。今回の研究では、Robo4発現を促進する戦略で、敗血症病態を緩和できるかを解析した。まず、Robo4を内皮細胞特異的に過剰発現するマウスを作製しLPSを投与したところ、死亡率が抑制された。このことからRobo4発現の促進が敗血症病態を緩和することが示された。次に、Robo4発現促進薬の開発に向けRobo4の発現調節メカニズムを解析したところ、BMP9シグナルがRobo4発現を抑制することが示された。また、このシグナルの阻害剤は、マウス肺のRobo4発現を促進し、LPS投与マウスの血管透過性と死亡率を抑制した。これらの結果から、Robo4発現促進薬で血管透過性を抑制し、敗血症病態を緩和できることが示唆された。大阪大学大学院薬学研究科 生命情報解析学分野 同 上 同 上 同 上 同 上治療には、病原体の排除や免疫系の抑制を目的として、抗菌・抗ウイルス薬やステロイド、抗サイトカイン抗体などが用いられているが、敗血症での死亡率は約3割と高く、生存率を改善しうる新しい治療法の開発が望まれている。 著者らは、敗血症の新しい発想での治療法として血管透過性を抑制する戦略を考え、血管内皮細胞特異的に発現し、血管透過性を抑制する作用を持つRobo4(Roundabout4)に着目した3,4)。Robo4は、胎児期の血管形成や通常時の血管機能にはほとんど影響を与えない一方で、病態における血管透過性の亢進や血管新生を抑制するユニークな機能を持つ5,6)。特に炎症病態においては、Robo4はTNFα等の炎症刺激が誘導する内皮細胞間のVE-cadherin接着の解離を妨げて血管透過性を抑制し、重症感染症・敗血症モデルマウス(大腸菌、インフルエンザKey words:敗血症、血管透過性、血管内皮細胞、Robo4、炎症Development of new anti-inflammatory drugs targeting vascular permeability 血管透過性は、血管内腔を覆う内皮細胞間の接着によって調節され、血液―組織間の物質移動を制御する。生体に病原体が感染すると、免疫細胞や内皮細胞が応答し炎症性サイトカインが放出される。この炎症性サイトカインは内皮細胞間の接着をゆるめ、血管透過性を亢進させることで、免疫細胞の血管外への遊走と病原体の排除を促進する。このように炎症反応は、病原体から生体を守る防御システムとして機能するが、感染症が重症化すると、過剰な炎症反応が全身に波及し敗血症が誘導される。敗血症では、炎症性サイトカインの血中濃度の上昇により、血管透過性が過剰に亢進することで血液成分が血管外に漏出し、臓器障害やショック状態が引き起こされる1,2)。現在、敗血症の69血管透過性を標的とする新しい抗炎症薬の開発
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