臨床薬理の進歩 No.43
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謝  辞利益相反効果がみられなかった。この原因として、肺と腎臓におけるBMP9-ALK1シグナルの寄与度の違いが考えられる。これまでにマウスのトランスクリプトーム解析により、ALK1の発現量が肺で特異的かつ顕著に高く、腎臓を含む他臓器では少ないことが示されている10)。このことから、マウスの肺においては腎臓よりもALK1によるRobo4発現抑制が強く働いており、K02288によるRobo4発現促進や血管透過性の抑制が、肺で強くみられたことが予想された。K02288が、Robo4過剰発現マウスと同等にLPS投与マウスの死亡率を抑制したことから、肺血管の透過性抑制がLPS投与マウスの死亡率低減に大きく寄与した可能性が考えられる。今後、他の臓器におけるALK1の発現量を詳細に解析し、K02288の肺以外の臓器への作用についても評価する必要がある。 K02288の効果が肺に限定的であることはメリットとも考えられる。ALK1の発現は血管内皮細胞に特異的であることから11)、ALK1阻害剤は肺の血管内皮細胞に特異的に作用し、透過性を抑制する、特異性の高い医薬品候補分子である可能性がある。今後は、K02288と既存薬との併用による相乗的な敗血症治療効果がみられるかについて検証していく。また、今回の検討では、K02288を事前投与するスケジュールでその予防効果を検証したが、今後は治療効果も検証していく。以上、本研究により、Robo4の発現を促進し、血管透過性を抑制する新しい戦略で、重症感染症・敗血症を治療する可能性を示すことができた。 本試験の遂行にあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深く感謝致します。また、CDH5-Cre/ERT2マウスをご供与頂きました慶応義塾大学 久保田義顕先生に深く感謝いたします。 本研究に関して、開示すべき利益相反はありません。74

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